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競馬関係者との恋
駆け出しのライターとして出会ったメンバーたちが、毎回特定のテーマに沿って好きなように書いていく「日刊かきあつめ」です。
今回のテーマは「#大人の恋愛」です。
脱サラして越してきた当初は、ひたすら緑が広がる自然しかないど田舎の文明のなさに辟易としたものだが、ほどなくして晴れた日にキラキラ輝く大きな湖や四季折々の趣を見せてくれる森の美しさに感動を覚えた。こういう暮らしもいいかもしれない。
朝3時。競馬の調教助手の彼が仕事に向かうのは必ず日の出前だ。自宅から程近い厩舎までは車で10分ほど。私も生活を共にする身として夜9時には就寝しているので自ずと彼に合わせて起きる。朝ごはんはコーヒーと旬の果物。あっさりめにしている。彼を送り出すと外が明るくなるまでは家で大人しく読書をしたり手芸をしたりして過ごす。また夜のうちにきていたLINEやらに返信をする。両親や家族とも生活スタイルのずれから距離が出来てしまったようで少し寂しい。
日が出たら庭の手入れ。最近ハーブポットにローズマリー、ラベンダー、ミント、レモングラスの栽培を始めた。クッキーに練り込んだりハーブティーにしたり。バスソルトと混ぜてお風呂に入れてもいい。その傍には柿の木。こちらは実がなるまでにはもう少し年月がかかるだろうが、いずれ干し柿を作ってみたいと思う。こうした楽しみは都内のマンション暮らしではなかなかできないだろうから、土地代が安く庭付き一戸建てが手に入ったのは嬉しい。
この村は同業者が多いのでこぞってみんな早起きだ。それに合わせて村の商店も比較的朝早くからやっている。開店に合わせて足を運ぶ。昼前に彼が帰ってくるのでそれまでに昼食の支度をしなければならない。お昼ごはんは何にしようかな。彼のことを考えながら肉やら野菜やら買い込む。何が正解なのかはわからないけど、なんとなく昼はボリューミーなワンプレートメニューを心がけている。オムライスでいっかな。アスリートフードマイスターなんかの勉強をしてみたいなと思う。本当は同じ村に住む彼の母親に聞けばいいのだろうけど。彼の父もまたかつて調教師だったのだ。
調教助手の仕事は厩舎の清掃や馬の世話、と騎手のような派手な動きはないにしろそれなりの肉体労働である。冬は寒いし夏は暑い。生き物相手だから気が抜けない。休みがない。それに相手は動物園の動物じゃない。競走馬だ。丁寧にメンテして強くして勝ってもらわなければ。勝負の世界の厳しさや尊さ、そこに全力で挑む緊張感をひしひしと感じる。そんな彼を全力で支える日々だ。ゆっくり旅行に行ったりできるのは何十年も先になりそう。
以上私が競馬関係者とお付き合いしてたときに、しきりにシミュレーションしていた結婚後でした。こんな生活になるんかな、悪くないかな、いやムリムリ、となり、私たちは程なくして別れました。
大人の恋愛って色々考えちゃうよね。
文:べみん
編集:真央
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