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30年前に引っ越した話

あれは私が10歳の頃。3年ほど住んだ社宅からほど近い場所に小さな家を建て、両親と弟の四人家族でそこに引っ越した。 
家が完成するまでの間、ほぼ毎日家族でそこに足を運んだ。父が夕方仕事から帰り家族が揃うと車で約10分ほどのその地へ向かうのだ。それはちょうど大工さん達が帰ったタイミングで、工事途中の我が家が見学できる。今日はどこまでできているんだろう、と毎日ワクワクしていた。
まっさらな土地にコンクリートの土台が引かれ、木材で家の枠が出来上がって行く。設計図片手に

「ここがお風呂場やな」
「ここ私の部屋〜!」

などと家族で大はしゃぎであった。
それまでずっと社宅で過ごしてきたため、憧れの「お二階」ができたときには高まる気持ちを抑えきれずまだ床の敷かれていない状態の階段を上った(危ないから多分やっちゃだめ)。

無事新居が完成して引っ越した後もワクワクは続く。
雨戸が珍しく、向かいに住む新しいお友達と申し合わせて毎日6時半に雨戸を閉めることにしていた。その際お互い窓越しに手を振る、とゆうだけのものなのだが、なぜか10歳の私にはこれがとんでもなくアガるルーティンだったのである。 

お庭というのも初めてで、前の学校のお友達がお別れの際にくれたミニバラをノリノリで植えた。
だが、そのうち新生活が慌ただしくなると私はミニバラの事などすっかり忘れてしまう。その間母が手入れをしてくれていたようで、このミニバラは、我が家へ来てもうすぐ30年を迎える。
少しずつ朽ちて行く木造住宅(正直もうボロボロ)と老いていく住人(こちらもボロボロです…)をよそに毎年安定の美しさで我が家に彩りを添えている。あの頃のようにドキドキワクワクすることって早々ない。だけどこのミニバラを愛でると、当時の引っ越しハイの懐かしさが蘇り、穏やかな高揚感をもたらしてくれる。

文:べみん
編集:らいむ

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