帰路1

キィ…
朝の喧騒が落ち着いてきた頃、裏口のドアの軋む音が静かに響く。

「おはようガメザ。朝会は今丁度終わったぞ。」
「げぇっ!?…か、課長…おはようございますぅ…」
「今日も皆勤賞だな。手当を期待しているといい。」
「アハハハ...う、うーっす...」

”偶然”すれ違った猫が微笑みながら言うと、スタスタと廊下を歩いて行った。
すると、朝会を終えた課員達が続々と持ち場へ戻っていくのが見える。

「はぁ…またバレちまった…こりゃ来月もジリ貧だな…。」
「先輩~~また遅刻ですか~~?よくクビにならないですね~~」
「うわ…今一番会いたくないヤツに話しかけられるとかツいてねな~」
「ご飯恵んであげようと思ったのにな~~いらないみたいですね~~」
「うるせぇ、早く巡回の支度しろ。」
「は~~い」

肩を落とすガメザに、最近出来た後輩はやたらと煽り散らしてくる。
うっとおしいと思いながらも、少女の境遇を鑑みるに扱いが難しいところだ。そんなことを思いながら巡回前の一服をしに喫煙室へ入ると、充満した独特な甘い香りの先から声をかけられた。

「お、ガメザくんじゃ~ん~おはヨ~」
「うーっすボパさん。相変わらずバチバチに濃いの吸ってんな~」
「いいでしょ~つい3日前に買った新作だヨ~」
「いい匂いだなコレ、後で試させてよ。」
「うんうん全然いいヨ!あ、ところでサ、例のウワサ聞いたヨ~?」
「ウワサ?」
「商店街の方でガメザくんが食い逃げしたってウワサだヨ~いくらお金ないからってそういうのは頂けないナ~(上手いダジャレを言った顔)」
「は?なんだそりゃ?確かに昔はよくやったけd…いやそうじゃなくてだ、今そんなことしたら課長に殺されちまうからやらねぇよ。」
「まぁそうだよネ~でもそうなるとなりすましか何かかナ?」
「そんな情報流したヤツも気にくわねぇけど、なりすましてるヤツは生きて返さねぇ…その件ボパさんの方で調べといてくんねぇ?後で飯おごるからさ。」
「仕方ないナ~まぁ、そういうことならこのボーパルさんに任せといテ!」
「サンキュ。ん、もう時間だから出るわ。」
「ハイハ~イ。いってらっしゃ~イ。」
「あ、それとさっきのシャレクソつまんなかったぞ。んじゃ。」
バタン…
「ム…あそこのホルモン連れてってもらっちゃおっト。」

不貞腐れてる情報係を尻目に喫煙室を出た。
その足で巡回用の軽装備を取りに備品管理の受付へ向かうと、ふよふよと揺らぐ半透明の緑色が見えたので指を突っ込んでみた。

「うわぁっ!?何するんですか!?」
「あ、それ感覚あったんだw」
「人に悪戯しといて第一声がそれですか!?全くもう...で、何しに来たんですか。」
「ああ、巡回行くからいつものやつくれ。」
「はいはい、じゃあ申請書記入して下さいね。」
「えーまたかよー...代わりに書いといて〜お願い❤️」
「こないだも私にやらせたじゃないですか!自分の事なんだから自分でやって下さい!私の仕事は備品の管理です!それに!まだご飯連れてって貰ってないんですけど!!!」
「あーはいはいすんませんね書けばいんだろ書けば。...ったくいつまで覚えてんだよ、令嬢のクセにケチくせぇな(ボソッ…」
「ちょっと!!!聞こえてますよ!!!」
「あーわりぃわりぃ落ち着けって!な?ほら、書いてやったんだから早く持って来いって。」
「こんなに話してるだけでモメる人、そうはいないですよまったく...ていうかこの短時間で書いたらまた字が汚くて読めたもんじゃ...アレ?おかしいな...読める...」
「まぁバカじゃねぇんだからこのくらいはな!ガハハ!」
「言動はバカ丸出しだと思いますけどね(ボソッ」
「あ?なんか言ったか?」
「いやいやいや!なんでもないです!なんでも!今持ってきますね!」
(数分後)
「はい、持ってきましたよ!行ってらっしゃい!」
「おう、サンキュー。んじゃ行ってくるわ〜」

備品管理係との巡回前の騒がしいやり取りは、他の課員の間では見慣れた光景で、最早一種のルーティーンにすら思える。
装備品を腰に装着しながら出口へ向かうと、先に支度を済ませた赤いリボンの少女が待っていた。

「あれ〜〜?先輩今日は早いですね〜〜どんな手使ったんですか〜〜?」
「どうもこうも、一発で通してきただけだ。」
「え〜〜読める字書けたんですか〜〜!?今日は嵐が来るかもですね〜〜」
「あ?聞こえなかったな〜もう一回言ってみろクソアマ。」
「キャ〜〜先輩に殺される〜〜誰か助けて〜〜」
「騒ぐな鬱陶しい、オラ行くぞ。」
「あ〜〜待ってくださいよ先輩〜〜」


今日も長い一日が始まる。

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