五味五色、それと

2本の時計の針がてっぺんを少し過ぎた頃、2つの人影がとある店の券売機の前に立っていた。

「フーケロちゃん何にする?」
「そうですね...ガメザさんのおすすめは何ですか?」
「フーケロちゃんでも食えるやつってなると...これかな」

指をさした先は普通盛り...の横、小盛りと書かれたボタン。
フローロの頭に浮かんだのは、店先で見た器より一回り小さく控えめなものだった。

「子供扱いしていませんか?」
「え?いや別にしてぇけど、基本俺は量すげーのしか食わねぇからぶっちゃけ他がわかんねぇだけで...」

別段、普段通りの接し方をしただけで他意は無かったが、帰ってきたフローロは以前と物の考え方から感じ方まで違っている事をすっかり忘れていた。というかそこを気にするのか、と思った。


「私も同じものをお願いします」
「え、マジで言ってる???」

少しムッとしたように見えたのは一瞬で、何気ない風を装っているが、続く言葉の語気はほんの少し強い。

「大真面目ですけど?」
「いやーでも普通こういう店初めて来たらまずは様子見でだな...」

説得を試みるもフローロの指は普通盛りのタッチパネルすれすれまで寄せられており、既にその気持ちは決まっているようだった。

「わーったわーったって!ただ無理はすんなよ?キツくなったら俺がサポート入るからさ」
「心配はいりません」

食事に来ただけだと言うのにやけに肩に力が入っている気がする。
フローロの目には興味や好奇心が強く現れており、たまに闘志のようなモノも感じられた。


そんなこんなでやっと店に入ると、L字のカウンターと無口な店主が出迎えてくれた。
店内に充満する香りは、2人の食欲を刺激する。
一方は懐かしさを噛み締め、もう一方は初めての匂いに感動すら覚えた。

「久しぶり、おやっさん」
「おう」

ド取案件もあり久々に顔を出したと思えば、あまりに短いやり取り。
しかし、通い詰めたガメザと、変わらぬ味を出し続けた店主にはそれで十分だった。

「いつもの2つ」
「おう」

食券をカウンターの上に出し、いつも通りのオーダーをする。
一瞬、店主が横目でフローロを見るが、特に何の確認もせずに言われた通りの物を作り始める。
2人のやり取りは依然として極端に短いが、それだけに2人の信頼を物語っていた。
そんな2人を横で見ていたフローロは微笑ましく言う。

「お二人とも仲が良いんですね」
「うーん、仲っつーか、まぁ、環境課入る前から通ってるからなぁ。そういうの意識した事ねぇや」

そうは言いつつ、頬杖をつきながらぼんやりと答えるガメザは、どこか安堵した様子が伺えた。

「ただまぁ、あの騒動でも変わらずに店畳まないでくれて良かったとは思ってるよ」

店主に向かうでもなく宙に放った言葉だったが、フローロにはそれがどことなく、自分にも届いたような気がした。

(ゴトッ)
「お待ち。いつもの2つ。」
「うひょー!ひっさびさだー!」
「え?」

しんみりした空気は、突然目の前に現れた巨大な2つの壁と重量感のある低音によって遮られた。
突然の出来事に硬直するフローロ。

「ガメザさん、これは何ですか?」
「何って、ラーメンだけど」
「いえ、それはわかるんですけど、私が知っているそれとは大きさが...」

フローロの質問の意図がわからず、きょとんとしたまま返す。
2拍ほど開いた間でようやっと何を聞きたいが分かり、ニヤついた表情で重ねる。

「なんだよ〜まさか想像と違いすぎてビビってんの〜?だから最初に言ったじゃんか〜w」

状況がわかった途端、訓練の借りを返さんばかりに煽り倒す。
最初に言われていた言葉の意味をようやく理解し、目の前のガメザの態度にも納得をした。
だが、それとこれとは話が別で、自分で頼んだものを撤回する様な真似はしたくない。
微かな対抗心も湧き上がっている。

「少し驚いただけです。こちらでも負けませんよ」
「へぇ、言うじゃん」

無論、食事に勝ち負けも何もないが。

「それじゃ...」
「「いただきます」」

2回戦のゴングが鳴った。

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