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優しくてまっすぐすぎるこの男が人生の大半を刑務所で過ごした殺人犯だとは💗『すばらしき世界』

《乱れ撃ちシネnote vol.219》

鑑賞日:2024年8月21日 Amazon Prime Video

『すばらしき世界』 西川美和監督 2020年 日本

【Introduction】
「スクリーンが待っている」西川美和著(小学館)を読んだ。
ワクワクするほど面白い本だ。

2021年に公開された『すばらしき世界』の企画段階から4年間の準備期間後に制作開始されクランク・アップされるまでを監督自身が綴ったエッセイによる制作日誌。

『すばらしき世界』『ゆれる』(2006)、『ディア・ドクター』(2009)、『夢売るふたり』(2012年)、『永い言い訳』(2016年)など常に自身の小説を映画化していた西川監督が初めて手掛けた原作もの映画。
原作は「復讐するは我にあり」佐木隆三のノンフィクション「身分帳」

13年の刑期を終えて出所したヤクザがその後世間にどう受け入れられていくか、否、どう拒絶されながら生きていくかを描いている。主演は役所広司。

西川監督の原作との出会い、関係者への取材から始まり子供のころから憧れていた役所広司への出演依頼、スタッフ、キャストの選択、季節感を出すために四季ごとに行われた撮影、コロナ禍での公開。

あらゆる段階で遭遇する困難やトラブルをどうやって監督が乗り越えてきたか。映画の制作途中でどんなことが起こるのかが見事な文体で語られている。

映画制作の裏側について書かれた本はたくさんあるだろう。
発案から制作準備を経てクランク・イン、その後幾多のトラブルやハプニングを乗り越えて完成に至るまでをここまで冷静な目で克明にユーモラスに書かれた本を読んだことがない。
エッセイ集としても映画製作日誌としても一級品☆☆☆☆☆だ。

ということもあり『すばらしき世界』を再見することにしてその前にそれ以前の西川監督作品も観ることにした。

まずはこの作品から。
24.08.18 -☆☆-『永い言い訳』 西川美和監督 2016年 日本
この作品の制作日誌エッセイ「永い言い訳」(文春文庫)も読んだので本作を再見した。

主役の本木雅弘竹原ピストルのキャスティングが絶妙で見せ場はたくさんあるけれどいかんせん物語が胸に刺さらない。
小説はぐいぐい刺さってくるのに。

西川美和は冷静に人を観察して裏表をさぐりその人物の二面性を描くことが巧みだ。
映像で描かれるよりも文体で描かれたほうが説得力があり面白い。
西川美和はとても魅力的な女性であると同時に嫌味な女であることにも通じるかな。本職よりも物書きとして惹かれる女性映画人は高峰秀子以来だ。

西川監督の映画は嫌いではないけれどいつもちょっと面白いけどね~で終わってしまう。

『永い言い訳』の次に観たのが監督のデビュー作。
24.08.21 -☆☆-『蛇イチゴ』 西川美和監督 2003年 日本。
宮迫博之のダメダメ男ぶりがうまい!
そしてそのダメダメ男ぶりは『下妻物語』でますます磨きがかかってくる。

・第58回毎日映画コンクール脚本賞(西川美和)。
・スポニチグランプリ新人賞(宮迫博之・西川美和)。
・第25回ヨコハマ映画祭 新人監督賞・最優秀新人賞(宮迫博之)
・第28回報知映画賞 助演男優賞(宮迫博之)
・2002年新藤兼人賞 優秀新人監督 銀賞
・第7回みちのく国際ミステリー映画祭2003in 盛岡 新人監督奨励賞。

という輝かしいデビューを飾った西川監督なんだけどこの作品も物足りなかった。
次が本命。
24.08.21 (再見) -☆☆☆- 『すばらしき世界』 西川美和監督 2020年 日本 Amazon Prime Video
一番好きな西川監督作品だ。
しかも役所広司の代表作じゃないかな。
仲野太賀、橋爪功、梶芽衣子、六角精児、北村有起哉、白龍、長澤まさみなどのキャステイングが見事で彼らが奏でたアンサンブルが絶妙で楽しく観られる。西川監督のキャスティングはどの作品も素敵だけど。

物書きとしての西川美和は大好きだけど監督としては特別に好きではないのに毎回評判がいいので今度はどうだろうと思って単独演出作品はすべて観ている。
嬉しいことに『すばらしき世界』は西川監督が次回作あたりで大きくステップ・アップすることを予感させる素敵な作品だった。

【物語の概要】
 冬の旭川刑務所でひとりの受刑者が刑期を終えた。
 刑務官に見送られてバスに乗ったその男、三上正夫(役所広司)は上京し、身元引受人の弁護士、庄司(橋爪功)とその妻、敦子(梶芽衣子)に迎えられる。
 その頃、テレビの制作会社を辞めたばかりで小説家を志す青年、津乃田(仲野太賀)のもとに、やり手のTVプロデューサー、吉澤(長澤まさみ)から仕事の依頼が届いていた。取材対象は三上。吉澤は前科者の三上が心を入れ替えて社会に復帰し、生き別れた母親と涙ながらに再会するというストーリーを思い描き、感動のドキュメンタリー番組に仕立てたいと考えていた。生活が苦しい津乃田はその依頼を請け負う。しかし、この取材には大きな問題があった。
 三上はまぎれもない“元殺人犯”なのだ。津乃田は表紙に“身分帳”と書かれたノートに目を通した。身分帳とは、刑務所の受刑者の経歴を事細かに記した個人台帳のようなもの。三上が自分の身分帳を書き写したそのノートには、彼の生い立ちや犯罪歴などが几帳面な文字でびっしりと綴られていた。人生の大半を刑務所で過ごしてきた三上の壮絶な過去に、津乃田は嫌な寒気を覚えた。
 後日、津乃田は三上のもとへと訪れる。戦々恐々としていた津乃田だったのだが、元殺人犯らしからぬ人懐こい笑みを浮かべる三上に温かく迎え入れられたことに戸惑いながらも、取材依頼を打診する。三上は取材を受ける代わりに、人捜しの番組で消息不明の母親を見つけてもらうことを望んでいた。
 下町のおんぼろアパートの2階角部屋で、今度こそカタギになると胸に誓った三上の新生活がスタートした。ところが職探しはままならず、ケースワーカーの井口(北村有起哉)や津乃田の助言を受けた三上は、運転手になろうと思い立つ。しかし、服役中に失効した免許証をゼロから取り直さなくてはならないと女性警察官からすげなく告げられ、激高して声を荒げてしまう。
 さらにスーパーマーケットへ買い出しに出かけた三上は、店長の松本(六角精児)から万引きの疑いをかけられ、またも怒りの感情を制御できない悪癖が頭をもたげる。ただ、三上の人間味にもほのかに気付いた松本は一転して、車の免許を取れば仕事を紹介すると三上の背中を押す。やる気満々で教習所に通い始める三上だったが、その運転ぶりは指導教官が呆れるほど荒っぽいものだった。
 その夜、津乃田と吉澤が三上を焼き肉屋へ連れ出す。教習所に通い続ける金もないと嘆く三上に、吉澤が番組の意義を説く。「三上さんが壁にぶつかったり、トラップにかかりながらも更生していく姿を全国放送で流したら、視聴者には新鮮な発見や感動があると思うんです。社会のレールから外れた人が、今ほど生きづらい世の中はないから」。その帰り道、衝撃的な事件が起こる・・・。

~オフィシャル・サイトより~

【Trivia & Topics】
✥第153回直木賞候補作にもなった自著を自身の監督、脚本により映画化。

✥情報満載のオフィシャル・サイトをご覧下さい。

【鑑賞ガイド】
😁😁😁
~~~~~~~~~~~~~
😁😁😁😁😁:見事な作品。
😄😄😄😄:お勧めです。
😀😀😀:楽しめます。
😔😔:苦手です。
🥵:途中下車。

【巷のうわさ】
Filmarks:☆☆☆☆★(4.1)

Amazon:☆☆☆☆★(4.5)



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