配信で見たbananaman live 2023『O』の感想
はじめに
bananaman live 2023『O』は8月3日(木)から6日(日)まで六本木の俳優座劇場で上演されました。
そのうち5日(土)の夜公演については配信での視聴も可能で、アーカイブ視聴は8日(火)まで。つまり現時点では千秋楽も配信のアーカイブ視聴も終わっていて、次にこのライブを見ることができるのは、おそらく来年のはじめ頃になるだろうBlu-rayとDVDの発売を待たなければいけません。
これから僕は配信で視聴した『O』の感想を書いていくのですが、その中には各コントの内容も含まれます。詳細に内容を記述するつもりはありませんが、全く内容に触れずに感想を書くのも難しそうです。
そういうわけなので、来年のBlu-rayとDVDの発売までライブの内容を知りたくないという方は、以下の感想を読まない方がいいかもしれません。いいですね、断りましたよ。
それでは『O』の感想を書いていきたいと思います。
オープニングコント Obtain
スーツで決めた二人。お互いの服装を褒め合ったあと、ネクタイをくれと言い出した設楽に、日村はゲームで勝ったらあげると言う。設楽はそのゲームに勝ちネクタイを手に入れるが、ゲームは一回では終わらずーー。
僕は2002年の単独ライブ『pepo kabocha』のオープニングコント「pumpkin」が好きなんですけど、あのように設楽が日村を言いくるめてめちゃくちゃな要求を受け入れさせるというコントかと思いきや、日村が一方的に熱くなって勝手にどんどん追い込まれていくという流れです。これはバナナマンの、コントというよりもむしろラジオやフリートークなどでよく見られる流れですね。
オープニング映像
曲はchelmico「Blue」で、繰り返される「まだ青くなるんだ」という歌詞に初心や原体験を忘れずにこれからもやっていくんだというメッセージを感じます。
ライブタイトルの『O』は第三のバナナマンと呼ばれている作家オークラのことで、「万年補欠 天才作家 忘れちゃ困るぜ三人目」という歌詞や、学生時代に新聞紙で作った女性を抱きしめたというラジオでは有名なエピソードを指していると思われる「紙のDollとランデブーお預け」という歌詞が出てきます。
「O」の円形のモチーフや「O」から始まる英単語、オークラのシルエットなど、「O」ずくしの映像ですが、相変わらずスタイリッシュにまとめていてかっこいいです。
コント On Fleek
同窓会に出席することになった日村が、着ていく服を設楽に相談する。日村は用意してきた服をあれこれと着ていくがどうもしっくりこないーー。
以前ラジオで、設楽が同窓会にどんな服を着て行ったらいいかという相談をしていたことがありました。そんなことを思い出すネタです。オークラの学生時代のエピソードにはクラスの人気者への逆恨みのような感情や、女子に軽んじられていたという意識を節々に感じますが、それがよく出ているコントだと思います。
途中、日村がゴルフのスイングをしようとして手に唾を吐いてドライバーを握り直すということを何度か繰り返して、「すみません、手を洗ってきていいですか」というボケがあるんですが、これどこかで見たことがある気がするんですよね。どこだったかな。
幕間映像 不良
設楽が時々演じる、活舌が悪いのか勢いだけで喋っているからか半分くらい何を言っているかわからない不良が僕は好きなんですが、久しぶりにその不良のネタです。
彼女に「明日の朝、隣の私が居なくなってて、代わりに犬(犬になった彼女)がいたらどうする?」と言われてリアルに考える不良がおかしい。威勢が良くて素直だけど馬鹿な不良を演じたら設楽の右に出る者は居ないでしょう。
コント Off Guard
設楽は同僚の日村のデスクの引き出しを開けて、後輩のなつきちゃんに託されたサプライズの誕生日プレゼントを入れようとするが、間が悪く出先から帰ってきた日村に見つかってしまう。設楽は日村に、バレたことは仕方ないからサプライズに引っ掛かったふりをしろと言い、その時の練習をはじめるがーー。
お互いに口は悪いけど、なんだかんだで協力して何とかしようとする設楽と日村の関係性がおもしろいコントです。設楽の指示に振り回される日村が堪能できます。
ただ一点だけ、メンヘラという言葉の使い方にひやっとするところがあり、その場面は観客も戸惑っているのか受けも悪かった気がします。一般的にそういう感覚というか言葉の使い方をする人は多いですけど、それをギャグやコントの笑いの軸にしてしまっていいのか。難しいところですね。
幕間映像 なぞなぞ
設楽が日村とオークラになぞなぞを出します。ラジオでよくある、日村とオークラがお互いにだけは負けたくなくて張り合う感じと、オークラの知った被ってかっこつける感じがよく出ています。
コント Oh-chan & Hi-ton
今回のコントタイトルは全てOから始まるので、お馴染みの赤えんぴつもタイトルを変えてあります。
ひーとん(日村)が「人の夢と書いて儚いと読む」という過去(2002年の単独ライブ『pepo kabocha』)にもした話をしようとするものの、それには乗っからずに「ダニの死骸持ってる?」と聞くおーちゃん(設楽)。ここからいつものようにひーとんがキレておーちゃんに逆にやられてしまう流れになります。
そして1曲目「好きだ」を歌います。これは2009年の単独ライブ『wonder moon』で歌った曲です。オークラが好きな曲ということなのでしょうか。オークラが一番好きな曲は「誕生花」だと度々言っていますが、「誕生花」は2010年のベストライブ『bananaman Chop』でも歌っているので今回はこの曲を選んだということかもしれません。
2曲目は新曲の「夢」です。曲の終わり、興奮したひーとんが最後のサビを何度も繰り返そうとしておーちゃんに止められます。「好きだ」を歌った2009年の単独ライブ『wonder moon』では「イカレポンチ」を歌い終わったおーちゃんが興奮してステージをうろうろしながら客席やひーとんを威嚇するという流れがあり、これを意識したわけではないでしょうけど、自分たちで演奏していて興奮してきておかしくなってしまうというのはなんとも赤えんぴつらしい流れだと思います。
「夢」を終えた流れでおーちゃんは「夢ってわけじゃないんですけど、来年の二月、武道館やります」とさらっと発表します。観客は完全に赤えんぴつのコントの中の話だと思っていて、次のひーとんの台詞を待っている感じです。ひーとんも「赤えんぴつイン武道館ですね」と続けますが、やはり観客は静かに話の流れを見守っている感じです。そこでおーちゃんは「あの、ほんとに、本当にやります」とコントの話ではないと強調します。ここでようやく驚き交じりの大歓声が上がります。この流れがあって、ちゃんと伝わっているのか不安だったんでしょう、カーテンコールでも武道館ライブが本当であることを強調していました。
幕間映像 吹き出す
ラジオの恒例企画「日村勇紀を笑わせろ」でお馴染みの、水を含むとすぐに笑って吹き出してしまう日村とオークラです。吹き出しちゃいけないと思うと、なんでもないことでもおもしろくなってしまうものなんですね。
コント Outshine
ギャラリーにやって来た日村。在廊するアーティストの設楽に作品の解説をしてもらう。それらにはここまでのコントに登場してきた小道具も含まれていて、日村は「On Fleek」で言っていた同窓会の帰りだったということが明かされる--。
伏線回収のおもしろさもあるんですが、僕がおもしろいなと思ったのは音楽とコントの融合で、途中からチンドン屋が使うようなスネアドラムにパーカッションやシンバルを付けたものを提げた人が出てきて、日村の言葉や動きに合わせてリズムや音を出します。またこのコントのラストでは日村が曲に合わせて踊るんですが、この部分はおそらくジェームス・ブラウンのマントショーのパロディーだと思います。
2021年末に刊行したオークラの著書『自意識とコメディの日々』に書かれていたように、オークラは若い頃から「音楽などのカルチャーとコントの融合」を目指していて、特に東京03のライブ「FROLIC A HOLIC」シリーズでは具体的にそれを実現してきています。もちろんバナナマンライブでも音楽ネタはやってきてるんですが、このコントでの音楽の使い方にはこれまでオークラが考えて実践してきた音楽とコントの融合のための手法が用いられているように感じました。
幕間映像 なぞなぞ2
「なぞなぞ」の続きです。お互い出し抜き合うけど楽しそうで、仲がいいだなと思います。ライブの稽古場の雰囲気の一端を覗き見たような感覚です。もちろんピリピリした時間もあるんだと思いますが。
コント Ominous
会社の同僚の日村と設楽。設楽が仕事をしているところに日村がやってきて、話題はお互いの子供のことになる。娘まひろがまともに会話してくれないことに悩む日村だが、どうやら恋をしているらしいことを知る。日村はまひろと同じテニス部で仲がいい設楽の息子元気にその恋の模様を探らせるのだが--。
子供のことが心配になる親と、そんなことはお構いなしに自分たちの世界で挑戦し、傷つき、成長していく子供たち。オークラも結婚し子供が生まれ、設楽の子供は確かもう成人しているはずです。自分たちの学生時代を振り返りながら、目線は自分たちの子供にも向けられているというところに感動を覚えるコントだと思いました。
日村の「人気者は裏で泣いている」というセリフは、以前ラジオで後輩の作家に告げ口をされた。いつも自分が罰を受けていることがオチになっている。笑われて馬鹿にされて平気だと思っているのかと激怒した回があったのを思い出します。また、学生時代後ろから思いっきり蹴られて、「人気者はつらいよ」と言ったというエピソードも出てきます。
エンディング-カーテンコール
エンディングテーマには奇妙礼太郎「きになる」が使用されていました。「いつの間にか歯が生えて」というフレーズが耳に残りますが、知らない間に成長して見違えるど綺麗になっているという内容があって、最後のコントによく合っています。
配信のリアルタイム視聴時にだけカーテンコールを見ることができるのですが、日村が直前のコントのラストシーンで頬張ったピザを急いで咀嚼しながらお辞儀をするのがおかしかったです。
オープニングコントにはワイシャツで股間だけ隠したほぼ全裸の日村が床を転げまわるというシーンがあり、ここでの裏話もおもしろかったです。ちゃんと前張りは張っていたそうですが、股間を隠してるワイシャツを引っ張るシーンでは、「もう慣れてきてるからちゃんと引っ張らないと新鮮なリアクションにならないと思って」設楽が思いっきり引っ張り、日村が焦るということがあったそうです。お尻を客席に向ける時には力を入れて肛門だけは見えないようにしているが、袖で控えてるスタッフには丸見えだったとも。
赤えんぴつの武道館については、まだ千秋楽終わってないからSNSに書かないでねと言っていましたが、赤えんぴつのコントから時間が経っているのですでに書いてしまった人は何人かいたみたいです。きっとこの時点でちゃんと削除したことでしょう。おーちゃんがひーとんのタンクトップを引っ張って引きちぎる場面では、いつもはちゃんとタンクトップに切れ目を入れているんですが、今回はそれが無かったので痛かったとのこと。
最後に
2019年の『S』、コロナ禍を挟んで2022年の『H』ときて今年の『O』が終わり、これで設楽、日村、オークラの三部作は完結ということでしょうか。来年からはおそらくまた別のシリーズが始まるのでしょう。
今回の『O』はオークラやバナナマンの二人の学生時代の情けない思い出、エピソードをちりばめながら、そんな情けない思い出が今の僕たちを作っているということを誇らかに謳い上げているようなライブでした。自分たちの根幹は変わらないし、忘れないぞということだと思います。長くバナナマンを見てきた人には、これまでのライブやラジオ、テレビでのエピソードやネタ、ギャグなどをそこかしこに見つけることができて楽しいですし、そんなことは一切知らなくても純粋におもしろいコントだったと思います。これだけ忙しく働きまくっている二人が毎年これだけのクオリティのライブを作り出し、演じることができるというのは本当に凄いことだと思います。来年のライブも楽しみです。その前に赤えんぴつの武道館と、『O』のDVDの発売ですね。