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一文物語 2015年集 その9

本作は、手製本「一文物語365 花」でも読むことができます。

1

変色して心の奥底にこびりついて色あせたゴミを取り除くことも忘れることもできなかった彼女は、自らゴミ箱に飛び込んだ。


2

笛が鳴り、先生の全員集合の声で集まると、人より影が多く集まって、先生の話そっちのけで、寂しいのかなと微笑んだ少女は、最後の時まで多くの影に囲まれて過ごした。


3

彼の口から発射されたミサイルで彼女は撃墜され妻となったが、今では妻から発射されたミサイルに彼は常に追尾されている。


4

価値あるものに削り落としてくれるそのかき氷屋で、金塊をかき氷器に入れたら、小銭ばかり出てくるは、転がり落ちた小銭を猿のエサのごとく他人が拾い去っていく。


5

闇物質でできた夫は、朝になると未完成にくずれてしまうので、毎日死ぬまで完璧を求めて妻は夫を作り上げていくのであった。


6

0と1の交換式で憎悪しか生まぬ友達世界に悪霊を流し込もうと企てた霊能力者は、集った悪霊たちに無駄だとなだめられ、彼らに慰められている。


7

トイレで過去をどんなに吐いて流しても、スッキリしない。


8

その一声で、鶴たちは機織りのプロジェクトをスタートせざるを得なかった。


9

あー言えば、こー言って、男と女の間で怒号が飛び交う中、仲良くしてと言わんばかりに女は内腹を蹴られ、その男には渡せない優しさで腹を抱えた。


10

山奥で見つけた長靴は半分ほど地面に埋まっており、履いてみると底はなく、下から足の裏を空気がくすぐり、地底人の空気穴となっていたようで、臭い足を突っ込んで申し訳ないと言って、持っていたカラフルなあめ玉を落として去った。


11

ありのままでいたい、と人を、そして自分をも騙し続ける電話の前で、人になった蟻が泣いている。


12

故人と並んで、完全に枯れた花が完璧に生けられている。


13

未来では過去の人間を蘇らそうと過去から人間を引っ張り上げているそうだが、たびたび失敗に終わり、途中で落っことしてしまい、一瞬だけ写真や映像に残ってしまうようだ。


14

願いの叶う写真紙を手に入れた彼女は、好きな男性と幸せな家庭を作っていく想定の写真を撮ることに成功し、その写真を印刷したあと不手際で写真は燃えてしまったが、二人は誰もが羨む燃えるような人生を歩んでいった。


15

夜、眠りに就こうとすると、心のドアをもう一人の自分がノックして来て、開かないと分かるとすすり泣きをして去っていく。


16

彼との思いはつながっているのと、彼女の長い髪は監獄の彼の小指に結ばれている。


17

一台のロボットしか友だちがいない少女は、面白いことをしてみてと頼んだら、ロボットは花火が開くように機体を散乱させ、彼女を驚かせたが、唯一の友だちの死を感じて涙を流す少女に、元に戻してほしいと懇願した。


18

池の鯉が陸地に飛び跳ね乾いた土の上でバタついているのは、そこから逃げたかったのではなく、進化を夢見ているのである。


19

失敗しかできない男が、失敗請負人となってあらゆる人の失敗を肩代わりして、大金を手に入れて富を得た。


20

申し訳ない、あなたを釣り上げてしまって。


21

おっとりと何ごとにも疎い女性が遅く起きた朝、窓の外の駐車場にいつも止めに来る数多くの車はなく、世界は静まり帰っていて、彼女一人宇宙人にさらわれることなく取り残されても、背伸びをして普段と変わりない生活を続けている。


22

怨念展で、彼女は忘れもしない仕打ちを受けたどす黒い衣装の女の怨念と睨み合っており、どちらが本物の怨念なのかわからない。


23

長い間、木製のタンスの肥やしにしておくと、引き出しを突き破って、木が生え、熟れた服の実がなっていた。


24

闇ばかり投函されるポストは黒くなり、回収員も辟易し、無理するなよとポストに声をかけると、翌日から闇の封書はポストの前に吐き出されていた。


25

彼の操り人形の彼女は、彼が消えて糸の緊張が緩んでも、緊張感を持ったいつもの振る舞いで踊り続けている。


26

世界統一機構は、意思統一を図るため、従来の文字や映像での洗脳布教ではなく、統一リーダーの脳みそ汁を配布することになり、生産工場ではリーダーの頭からみそをえぐりとる苦行の悲鳴が世界中に響き渡っている。


27

裸で外で遊んでいると、知り合いが近づいてきたので、自分だと認識されないように顔だけを隠して、遊び続けた。


28

芯はぶれないと豪語していた彼女の撮る写真はいつもブレていて、叶わない夢をいくつも重ねて盗撮しているようだった。


29

ドアノブがタコの足で、ひねってもドアは開かず、吸盤が握った手を放してくれない。


30

月光の中、少女はゆらぎ漂うクラゲを仰ぎ見ながら海中ブランコをゆっくり楽しんでいる。


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