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一文物語集 ポケットに入る宇宙の万華鏡 上 その3

本作は、手製本「ポケットに入る宇宙の万華鏡 上」でも読むことができます。

1

暗黒アロマを使ってみると、頭の中いっぱいに星々が広がって宇宙遊泳をしているようになったが、救急車を呼ぶほどに酔ってしまい、ついには星に帰りたいと言ってしまう。


2

その村に古くから伝わる時計のついた棺が置かれていて、一度も開いたことがなく、中を見た者もおらず、ある夜中の十二時にその棺が開き、赤ん坊の鳴く声が村中に響いて以後、神の子として大事に育てられた。

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3

海中音楽団が吹く楽器から音が込められた泡が出て、海の中を昇って行き、聴衆は思い思いに海面を漂いながら気持ちよく聞いている。

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4

はいよ、目玉大盛り。

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5

はいよ、巨大目玉焼き。

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6

その科学者は、突然開いた机の引き出しに引き込まれて、これが未来への導きかと思った瞬間、便器から顔を出して以来、小ブラックホールの研究に勤しんだ。

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7

全財産が五百円以下になると入れるお店があり、そこでお金を使い切って出てくる人々の表情はみな、スッキリしている。


8

車が欲しいと言っていた彼は、たまたま暴走して来る誰も乗っていない車に飛び乗り、自分の物にして何処かへ行ってしまった。

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9

流氷に乗ったペンギンたちが、自分の小さなヒレで、海面から顔を出すシャチとモグラたたきをするように遊んでいるが、時折食べられてしまう。

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10

彼女の履く大きな花びらのスカートがしおれていると、元気がないとわかる。

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11

宇宙というシャボン玉が吹かれて生まれ、いつ割れてもおかしくない。

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12

亀は速く移動できるようになって、どこにぶつかっても大丈夫なように重い甲羅を脱ぐことはせず、足を車輪に進化させた。

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13

朝起きると、人々は無表情で、今日の気分をガラス板の中から探す一日が始まる。


14

階段を上がっても一番上にはたどり着けず、体力の限界を感じ始めるといつの間に下っていて、見えてきた平地に力尽きた人々が倒れている。

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15

痛みをこらえて大口を開けたワニの歯を、怯えながらも歯科医は治療したが、大口を閉じないワニに治療費を取ることができず、だが、ワニは顎が外れて口を閉じることができなかった。

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16

カラスと黒猫を連れている人がいたので、てっきり魔女かと思ったが、掃除のおばちゃんだった。

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17

祖先を調べようと家系図を見ると、途中で繋がりが切れているにも関わらず、自分が存在している。

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18

常に中立を取る彼女はある日、つけていたピアスが片耳だけ外れているのに気づかず、右の方向に偏ってばかりいる。

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19

キーボードの上に頭を乗せて眠ってしまい、その間に見ていた夢がいつの間にか入力されていて、目も当てられないくらい恥ずかしい文章がアップロードされている。


20

押せ、と言われて渡されたスイッチを、怖くて、未だに押せずにいる。

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21

山頂までの山道を登るのが大変でしたら、こちらに一切景色の見えない頂上への階段がありますよ。

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22

助けてくれ、とメッセージがガラス板に表示されたので、閉じ込められてしまったのかと思った彼は、慌ててガラス板を割った。

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23

引き出しにしまっておいた使っていない切手は、紙と貼り合わさってしまっており、使わずに隠しておいたお金には、カビが生えて使えなくなっている。

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24

燃え上がるメリーゴーランドから、次々と馬が逃げ出して来る。


25

彼は、やっと手に入れた聞いてはいけない星の軌跡の溝が彫られたレコードをかけると、深淵の音楽とともに針が中心に近づいて行くにつれて、ブラックホールのごとくそこに引き込まれて消えてしまった。

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26

苦い味噌汁が出た時、隠し味にたいがい妻が悪口を染み込ませている。

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27

そのスピーチに感銘を受けて、それでも拍手を止めるには惜しいと言う彼の手の平は血だらけである。

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28

その階段は、上っている人を応援してくれるが、決して下ることを許してはくれず、いつになっても最上段にたどり着けないので、途中で立ち止まる人も多くいる。

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29

飲食を禁止されているその図書館で、ザクザクとスプーンで本を削って、文字をすくって食べることは許されている。

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30

買い物客の金額をそろばんで計算しようとすると、次々とそろばんの球が弾き飛んで、客は身の危険を感じて何も買わずに逃げていく。

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31

安全です、と沈められ行く檻の中からサメを直に見るのだが、酸素ボンベは渡されていない。

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