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一文物語 2016年集 その1

1

誰かそちら側から年をあけていただけませんか。

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早朝、一年の思いを固めるため、滝行を行っていると、意思を固めた誰かが落ちてきた。


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家出した妻を追い、雪原の足跡をたどると女の雪像のところで足跡はなくなっており、仕方なく引き返した。

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万年も生きる亀の甲羅には、膨大に続く夢が詰め込まれている。

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荒廃した町の電光掲示板に、母なる地球が大地の上で起こる悲喜を私的なポエムにして垂れ流している。


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ドラゴンを倒して手に入れた伝説のドラゴンヘッドフォンを装着して音楽を聴くと、頭をドラゴンに食われた状態で、洞窟で孤独に暮らして寂しかったドラゴンの猫なで声が聞こえてくる。

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その女のために掘って出た温泉は愛の証だったが、最初こそ勢いは良かったものの、もう枯れ始めている。

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歯ごたえのある本を噛み砕いて読んでいると、よだれが止まらない。


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青年は、毎日変わらない退屈な日常の消失点を越えて、未来に消えた。

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孤島の城に囚われた羽の折れた少女は、片目を失った大鳥の片翼を借りて島を脱出した約束の礼に、片目を差し出した。


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多くの観客の前で、炎の輪をくぐり抜けようとしたら、スッポリはまってしまった。


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表情でも言葉でも態度でも、気持ちを伝えることが下手な彼女は、爪に感情アイコンが描いてあり、嫌だと言うときは自信ありげに、親指を立てて見せるのです。

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山のように集めた人形を燃やて処分し、その灰を片付けていると人骨が出てきた。


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彼女の体に巻きついてからみ合う運命の赤い糸はほどけず、身動きが取れないからといって切ってしまうのはもったいなかったが、自然とその糸は一本になった。

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雲ひとつない天気予報を聞いて、雲の代わりに体を隠すものを探し始めた天女。


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町工場に住み着いたクモは、その技術を盗み出し、有刺鉄線のクモの巣を作るようになった。

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軟弱体質をカバーするため、タコはスミ吹く貝となった。


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毎日、美術館にやってくる幼くも勇ましい少年は、女性の描かれた絵画の前で、どちらが先に笑うか、未だ勝負がつけられずにいる。


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混雑を一掃するための兵器を改良して、背負って空を飛べるようにした移動機で、快適にかつ犠牲を出さずに目的地についた。

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誰も座ってくれないから、雪を抱え込んいるベンチ。

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その蓄音機に手を当てて今まで言えなかったことを念ずると、オブラートに包んで言葉を発してくれるので、亭主関白の家庭や社長室用に売れている。


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バーで酔い潰れた彼は、カクテルにひたる美女に誘われて、グラスに唇を近づけていくとそれは冷たかった。

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明日はどれにしようかと部屋に散らかった猫の被り物や、どんな場面にでも合わせられる多種多様な仮面を、彼女は夜な夜な選ぶことに忙しい。

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悪天なんのその、絡みつきたい一心で、電線目指して草が芽を伸ばしている。

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時間を遅らせるために、時間に重石がつけられた。

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久しぶりに子供が乗ってくれたメリーゴーランドの馬は、いきり立って鼻息が荒く、もともと競走馬で周囲の馬に負けない走りを見せようと、発走ベルを待っている。

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他人や機械任せにせず、その女は自分の心臓となる太鼓を叩き続けていたが、音がやんだ。


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喧々囂々たる都会の音を聞かないようにヘッドホンをした少女は、地球の悲鳴が聞こえて一人涙している。

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ソノ女ハ吐ク息デ男ヲ凍ラセヨウトシタガ、暖かい笑顔に惹かれたと情熱のあぶりを受け、求婚されている。


30

自らテレポーテーションの実験台になった研究者は、移動した先で片腕がどうして途中で落ちてしまったのか調べている。


31

今年のクリスマスこそサンタを襲撃し、イルカに船を引っ張らせ、自分たちがプレゼントを配るんだと海賊たちが今から横取り好感度アップ作戦を練っている。


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