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一文物語 2017年集 その12

本作は、手製本「一文物語365 舞」でも読むことができます。

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隣に住む魔女が大事にしていた壺を割ってしまった少年は、透明になる魔法をかけられたまま、魔女に死なれてしまった。

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瓢箪出勤となった未来では、名前を呼ばれることで職場に吸い込まれていくので移動の手間が省けるのだが、みんな心を溶かされてしまっている。

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待ち合わせの時刻を過ぎても彼女は待ち続け、季節が何度か移り変わるとともに彼女の姿形も変わり、やっと対面した時にはもう話すことはできなかった。

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火山が噴火し、大きな絆創膏を被せた。

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こちらに到着する頃には焼き餅になっているという餅を、兎が月でついて地球に送っているのだが、焼き餅になるどころか流れ星のごとく空で跡形もなくなっていることをまだ知らない。

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よくつまずく彼女は、一秒の隙間につま先をつっかけてしまう。

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誰かが落とした携帯電話を河童が拾い、持ち主を探しに街に来たはいいが、そこに自分以上に派手な人々がいて誰も河童に驚くこともなく、交番に届け出るも不審に思われず、河童は時代が進んだといって堂々帰っていった。

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猿や猪が町までやってきて畑を荒らし、人に噛みついていたが、猿座や猪座ができたことで、ぴたりと人前に現れなくなった。

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その女が歌を詠むと、誰もが感情を引きずり出されて涙し、時には笑わせるが、赤ん坊だけはどうしても泣きやませることができない。

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隙間があると埋めたくなる彼は、知らないことを本で知識を得て、その本によって本棚の配置が崩れてまた生まれた隙間を埋めるために本を買い、ついに身動きが取れなくなった。

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柿を食べるかと聞かれたので、てっきりもらえるのかと思って返事をしたら、柿の種が送られてきて、仕方なく庭に蒔いてやっと実がなったが、しぶ柿しかできない。

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送られてきた独白の手紙は、呪いがかかっていて、恨み辛みを読み終えた後、突如燃え出した。

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手当たり次第本を読む彼は、世界中からただ十四ページ目だけを集めた本に出会い、収められた本の詳細がなかったので、探読の旅に出た。

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人形に関節をつけると嬉しそうに自由に動きだし、何か言いたそうだったので声を与えると、あなたの魂をくれと言ってきた。

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寒い夜、野良ネコがガス燈にのぼって暖をとろうとしている。

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仕事のあてもなく、釣りに時間をあてる日々を送っていた青年は、連続して人ばかりを釣り上げ、道に迷っていて助かったとお礼を言われ、調査をもとに海中地図を描き、海底都市まで築き上げた。

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呪い祟る相手を間違えて幽霊に取り憑かれた彼は、離脱の方法がわからないととにかく謝る幽霊に、復讐の相手を殺してくれれば成仏できるはずと説得させられている。

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割れた石を拾った男は、元の形が知りたくなって川を上り、山を進み、崩れた岩石を調べていると、同じ石を持った女が現れ、一つになった奇跡の石を二人で守っていくことになった。

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出口のない回転ドアに閉じ込められている。

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妻と生まれたばかりの息子を残して、戦地で若き兵士は生き抜いていくが、長引いたその戦いで、兵士は成長した息子と弾を撃ち合うことになった。

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幼少期に、神話に出てくるような英雄に憧れていた青年は、薄暗い部屋で光の中に増殖し続ける世の卑劣な書き込みをひたすら消している。

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各国の代表が招かれたお茶会のお茶が、他の誰よりも苦かったので、全世界を敵に回す戦争が始まった。

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見るだけで、あらゆる人の心が手に取るようにわかる学者は、誰とも関わらないように山奥の岩穴にこもったが、石や山の息遣いが心で聞こえるようになってしまい、ついに宇宙の深淵を目指していなくなった。

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速球による会話が苦手な彼は、スローで投げ返すが、カーブがかかってしまい、相手はいつも取り損ねてしまう。

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見知らぬ生徒のテストの答え合わせをする正しいことにしか興味がない男は、間違いだらけの解答に、生徒らを呼び出し、いかに自分が丸をつけたいか熱く語っている。

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なぜ自分は生きねばならないのか、という答えを子供の頃から探していた青年は、宮廷の血湧き肉踊る舞姫に感銘し、彼女にどんな罵声を浴びせられようとも、踊り続けてもらうために仕え通した。

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そのささやかではあった過去の幸せを蘇らせてやる、と悪魔がその願いを叶える条件を出してきて、彼は火にかけたヤカンの水を凍らせようとしている。

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いつになっても革命を起こさない革命グループ内で革命が起きて、消滅した。


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身寄りのない遺体を引き取っているその男は、生きている人間といるより楽であると、死体と語っている。

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原稿が進まない悩める作家は、言葉が欲しいと天に願うと、脳天に突き刺さる言葉が次々と降ってきて、頭が弾けて詰まっていた中身が飛び散った。

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人類が諦めかけた最後の暦の日、とりあえず七日分、と未来から暦が送られてきた。

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 水島一輝|小説 水輝堂
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