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一文物語集 ポケットに入る宇宙の万華鏡 上 その4

本作は、手製本「ポケットに入る宇宙の万華鏡 上」でも読むことができます。

1

焦げついて何をしても剥がれない肉を見た彼女は、もしかしてと、焦がさないように肉を焼き、意中の彼と一緒にそれを食したあと、心から肉を焦がしあったことで、二人は決して離れることはなかった。

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2

空は飛べず、薬も作れず、それでも魔女になりたかった彼女は、薬草や骨を煮ていると神秘の色が生まれ、それで染められた布をまとった人々が輝く笑顔を放ったことで、人々を魅了する魔法を手に入れた。

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3

網の上で焼いていた大きな貝がプクプクと汁が吹き始めて、パカッと口が開くと、十徳ナイフが飛び出てきて、食べられることに最後の抵抗を見せた。

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4

階段を降りていると、ふと次の一段だけ空になっていて、足をつけていいものかと眺めていると、後ろからぶつかられて転げ落ちてしまう。

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5

まばたきするたびに世界は変わっている。


6

拡声器で話そうとすると、体内から大きな声を引き出されて、口が裂けた。

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7

ショーウィンドーでマネキン達が服を着飾れて嬉しいと言っているが、製造ラインでランウェイしたことを懐かしく思ってもいる。

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8

彼は、また新たに手に入れることができた一枚の羽を翼につけ加え、未到の空へ飛んで行く。

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9

彼女は、好きな彼に何を尋ねても無言でいて、嫌がるそぶりも見せないのでついていったまま結婚することになり、周囲から一緒になった理由を聞かれた彼は、またいつもの笑顔だけで答えた。

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10

わし、わしづかみ。


11

日に日に字が薄れていくその本には、インクを補充し続けないといけない。

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12

私の髪、もっと丁寧にかつキレイに扱ってほしい、とへそを曲げたモップの持ち手がねじれてしまっている。

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13

いつも通る横断歩道がずっと赤で渡れず、信号機の中の人の姿もなく、赤い液体が滴り落ちている。

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14

助けを呼んでいるのか、栞として挟んであるのか、本の隙間から手が出ている。

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15

花瓶の置き場を毎日変える妻がどこに花を飾るのか、楽しみに探すのだが、ある日なかなか妻が戻ってこないので見にいくと、窓辺で花を口に挿して笑顔で待っていた。

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16

疲れていた彼は、袋ごと麺を茹でていることに気づかず、硬さを確かめようとすくい上げた黒い麺を見て、いつイカ墨を混ぜたのだろうか、とそれがはがれ茹で上がったバーコードだと気づいていない。

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17

パズル人間が転び、辺り一面に表皮のパズルがバラバラに落ちてしまい、早くピースを体に戻さないと、出血多量で死んでしまう。

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18

入浴好きの彼女は、一度お風呂に入ってしまうとなかなか出てこず、どうも出浴が好きじゃない。


19

七色に咲いていたお気に入りの花がとうとう枯れてしまい、なくなく花瓶の水を捨てようとこぼしたら、虹が広がっていった。

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20

海に向かって幅跳びをすることになり、駆け飛んだ着水点のクラゲクッションで再度跳ね上がり、トビウオ階段を走り上がって、クジラの尾びれで弾かれて向かいの海岸にたどり着いた。

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21

隣の隣の隣の町に行くには電車で一駅なので、大きな足に気をつけながら、こっそり小人がその電車に乗ると、乗車賃払わないとダメですよ、と小人車掌が姿を現して、もう世界には小人の存在が知られている。

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22

朝食に目玉焼きを作ろうと、フライパンに卵を割ると、星々をふくんだ宇宙がトロンと流れ出てきて、辺りがだんだん蒸し暑くなると、台所の空気が白く固まり始めた。

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23

一日着ていた文字の書かれた服を脱ぐと、文字が体に移り込んでいて、それを消すには、何万とその字を書き吐き続けなればならない。

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24

人魚は、金魚が逃げないように、流れてきた鳥かごに入れて、眺めている。


25

流れる時間に負けないように、人々は、ガラス板の上でスクロールランナーと化している。

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26

知識を蓄えた本は、その知を奪われないために博識を活かして貝に姿を変えたが、火にかけられ、それでも食べられまいと、最後は口を空けた勢いで、汁に全てを流して飛び散らせた。

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27

狭い社会の箱の中に放り入れられ、すし詰めの群衆に押しつぶされそうになっていると、助かりたかったらこれで自分を救え、と神にUFOキャッチャーのリモコンを渡された。

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28

噂の女の子の話をあちこちで聞き、よくこのカフェに来ると聞いていたので、ひと目見たくしばらく通っているが、全く現れず、お店が人を集めるために流した話だという噂もある。


29

たくさん人を乗せるための長い電車ができあがったが、路線全体が車両と化し、車内を歩く羽目になった。

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30

サイバー葬が主流になり、新しい魂の座を得た故人は、可愛らしい女性キャラクターの姿を借り、ネット上で生人どもを楽しませ、第三の人生を歩んでいる。

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 水島一輝|小説 水輝堂
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