透明なゆりかご5話 感想
ドラマ「透明なゆりかご」を観た。評判がとても良かったので気になってはいたが、これほど惹かれるとは思わなかった。あらすじはだいたい以下の通り。
舞台は1997年夏。青田アオイは看護学校に通っており、夏休みに産婦人科の病院でバイトをすることになる。アオイはひと夏の経験を通して、「いのちとは何か?」について考えていくことになる。
一回ごとにゲストがいて、完全な一話完結ではないがだいたいそのように進んでいく。各話秀逸で、悲しい結末を迎える話も多いのだが、主演の清原果耶の演技と演出の優しさで、なぜか心温まるようなドラマだった。各話素晴らしいが、5話について書いていきたい。以下ネタバレを含むので、注意してほしい。ただ、ネタバレを見たところで透明なゆりかごの魅力が変わることはないと言える。
5話 物語は3つの場所で始まる。アオイはバイトに向かう途中、男の子に後をつけられていると気づくが、彼はそのことを認めようとはしない。看護婦(この時はまだ看護師ではなく看護婦で、このあたりの考証に間違いがないのもNHKドラマを安心して見られるところだ)の先輩望月は同様に出勤中、貧血で倒れた女性を見つける。一方、病院では院長であり唯一の医者である由比と婦長の榊が、先日の母体死亡(4話)を踏まえて医院のこれからを話し合っていた。
これはテレビドラマであるから、この3つの話が最後に繋がってくることは容易に想像がつく。その繋がり方も衝撃的といったものではないのだが、最後に優しい感動が用意されている。
由比と榊の話は、かつて2人で大病院に勤めていた時に担当した、14歳の妊婦のことにつながる。両親に再三、中絶を勧められた妊婦だったが、いなくなった恋人の男が帰ってくると信じて絶対に産むという意思を曲げることはなかった。彼女の母親は由比と話し合い、ついに娘が母親になることを認める。しかし、それは単に14歳の娘に出産をさせるという決断には止まらなかった。
あらすじを最後まで追うことは避けるが、男の子とアオイ、女性と望月が病院の前で出会ってからが素晴らしい。想像のつく通り、この男の子と女性は過去の14歳の妊婦とその息子なのだが、この2人がこれまで過ごしてきた日々が見えるような演技と空気感であった。主役でありながらこの話では2人の支えに徹し、時に目立ちながらも抑えた演技を貫いた清原果耶も圧巻であった。
この話の骨格は、由比と女性の関係にある。由比は過去の妊娠のとき、決して出産に賛成したわけではなかったが、唯一彼女の話を訊こうとした人間だった。そうでなければ、彼女は両親に押し切られて中絶を決断していたかもしれない。彼女とその母親の決断は、恐ろしく大きなものを犠牲にした決断だったが、それでも由比が彼女の意思を尊重しようとしたことは、現在になって彼に帰ってくる。自分の思いを諦め分娩を大病院に任せようとしていた彼に、分娩受付を続ける決断をさせたのは彼女だった。この決断も、母体死亡の危険を否定するものではないから、多くのものを犠牲にする決断であることは間違いない。ただ、それは確かに彼を救う決断であった。
由比が救った女性が、10年近くの時を経て由比を救いに来たのだ。
残念ながら、拙い文章力では作品の魅力を伝えることができない。誰かに伝えたいわけではないが、自分の考えがまとまってスッキリしている。