【演劇】『容疑者Xの献身』を観ました【感想の類】
容疑者Xの献身 by ナッポスユナイテッド @シアター1010
※ネタバレないです。
目まぐるしく進む時間の流れに、ガリレオ・湯川の早口の台詞は適切だ。台詞に区切りがつけば舞台が180°回転して場転、役者は兼役をしながら作品のスケールを形作る。時折、笑いも起こるシナリオの塩梅が、常にキャラクターの裏に潜む悲壮感と上手く調和している。
この作品をミステリーと定義すべきかは原作の時点で議論が拡がっていたが、冒頭でいきなり殺人が行なわれ、その行く末を客席から見守る臨場感は舞台ならではと言える。推理することよりも、湯川の状況の解釈と役者の台詞が逐一胸に突き刺さり、そこに潜む嘘や真実を想像しながら感情移入していく。
有名な作品であるから、例えば結末を知ったまま観る人は少なくなかったろう。それでも舞台というのはその瞬間だけに灯るフィクションの篝火で、物語を更に深く知るためのしるべとして観客はそこに集うのだ。
キャラクターの存在は役者の息遣いによってしか存在出来ない。この作品の主役は、間違いなく湯川ではなく石神だと思っている。彼のアイデンティティをどう捉えるかは自由だが、この舞台における石神という人間の解釈が個人的には他のどの媒体の作品よりもリアルの人間の一面に迫っていた気がしてならない。「そんな人間いる訳ない」と思っていても、事実は小説より奇なり、隣人が自分の想像を超えた人間かどうかは紙一重の境界線だ。
多くの人は涙していたが、何を感じるかは観客の自由だ。明確にドラマ的要素を含む作品であるが、非常にセンシティブで恐ろしい話でもあると思っている。それでも目に焼き付けて劇場を出れば、眠る時にふと思い出すのは作中のシーンのいずれかであるだろうし、劇場という空間の中がいかにセンセーショナルであったかを思い知らされることになるだろう。