生い立ちパズル⑨ piece:帰る場所
母に会えないまま 数年程が過ぎます。
相変わらず 学校は合わず 体調崩すことが多かったです。
小学6年に進級する前に、祖母と一緒に学年団主任に呼ばれます。
そして、こう言われました。
「欠席日数が多すぎるし、一学年もう一度やり直すのはどうか」
留年です。
絶対 嫌でした。
また学校行く年数が増えてしまう。
それに 一学年下の子達と やり直せる勇気もなかった。
小学校留年になると、狭い町だし すぐに噂になる。
また、銭湯で会う嫌なおばさんが こっそり悪い顔で 悪いことを言ってくる。
嫌な視線を浴びることになる。
安心して頼れる人がいないまま、 孤独感だけが 化け物のように わたしの中でどんどん成長していくのでした。
なんとか頑張ります、ということで 進級はできました。
そして、
中学生に上がった頃、母が突然、やって来ました。
久しぶりに会う友達のように。
なんにもなかったかのように明るく、脳天気な音程で
「みぞちゃーん、大きくなってぇ」
と、入ってきました。
見知らぬ赤ちゃんを抱いています。
(今思うと、母は 『脳天気な音程』でしか 会えなかったのかもしれないですね。)
「みぞの弟だよ」
と いきなり わたしに抱っこさせます。
…おとうと?… どういうこと?
祖母は 話は知っていたようで、驚いてはなかったです。
少し 心配そうな表情ではあったかな。
わたしの頭の中はぐるぐるぐるぐる。
実母が何を言っているのかわからない。
この状況を把握できない。
理解できる糸口を 必死で 脳内で探す。
ただただ その場を繕って
笑顔でいることしかできない。
暫く 母と赤ちゃんは、家にいて、楽しそうに 母は談笑をし、 その後は 赤ちゃんを抱っこして どこかに帰りました。
また、どこかへ行きました。
わたしを迎えに来たわけではなかったようです。
「必ず迎えに来るから」
あの言葉は どこへ行ったんだろう。どこへ消えたんだろう。
もう待つこともなくなりました。
誰も何も教えてくれない。
わたしも どう聞いていいのかわからない。
何を考えればいいのかわからない。
どう 自分の中で 目の前の状況を飲み込んだらいいんだろう。
ただ、ただ、母がわたしを迎えに来ることはもうないんだ、と確信していくのでした。
それから 母はときどき 赤ちゃんを連れてやってきました。明るく。楽しそうに。
祖母にお金を借りに。
そのお金は 恐らく 父からのわたしの養育費。
まあ どのお金が どのお金とかないんですけど。
ちょっとだけ嫌な気持ちにはなります。
わたしの中で 何かわからないけど ふつふつと 芽生えてくる黒より重たい暗い色のの感情。どんどん心の奥底に 溜まっていくのです。
それでも わたしは笑っていました。
そうするしかなかったです。
その後、母は 連れてきていた弟の他に 弟と妹、全員で 3人の赤ちゃんを生みました。
義父には このあと わたしも会うようになります。
母の家にも 招待され 遊びに行くようになり、父の家にも 変わらず 定期的に、招待され 遊びに行くようになるのです。
父の家では 義母が相変わらずです。
母の家では、義父は優しく接してくれたし 特になんにも嫌な思いはしなかったけど 食事していても 何だか蚊帳の外なんです。
義父と母と弟妹の5人家族なんです。入れないんです。
弟たちが 喧嘩して それを義父が叱って 母も笑っている。新築の大きな家で。
心は蚊帳の外です。
手を伸ばせば 触れられる距離で立っているのに、その景色は 遠く遠く、決して わたしにはたどり着けない場所でした。これもまた白い景色。
帰りたい。
帰りたいところがない。
思い出すのは 柴犬ジョニー。
ジョニーに会いたい。
チョロ松にも会いたい。
死んでしまった文鳥にも…。
会いたい人はひとりもいない。
幸せそうな雰囲気を間近で感じながらも そこの中には入れないし その幸せには 触れられないのです。
ここは、わたしの居場所じゃない。
わたしは ますます孤独感に苛まれていきます。
この頃から わたしの脳内に 度々、丘の景色が浮かぶようになりました。
丘の上に一本、気持ちよさそうな柔らかい葉が生い茂った木が立っています。
そのうち、わたしは 授業中でも いつでもどこでも 気がついたら そこへ飛んでいけるようになっていました。
最初は 脳内の『絵』のように浮かんでくるだけでした。
イメージすると 自然に 浮かんでくる。
そのうち、集中すると ワープするように そこへ行けるようになるのです。
その木の下で わたしが座って 気持ちよさそうに微笑みながら 空を見上げています。
その場所は、脳内で どんどんリアルな場所になります。飛んでいってる時のわたしは 外から見たらどんなふうになっていたんだろう。
抜け殻みたいなのだろうか。
それができるようになって ほぼ毎日 わたしは そこへ(脳内の景色)行ってました。
そのうち、その場所は 風も吹くようになりました。頬を撫でていく風がとても心地良い。
『共感覚』を上手く使い、自分の想像力でつくった居場所です。わたし以外、誰も入れません。
わたしの後ろにいる『もうひとつ』の中の場所なのかもしれない。
居心地がいいのです。
現実には 野良犬たちと、とても仲良くなり、わたしの帰りの時間帯を覚えて、待ってくれていたりして、
毎日、給食のパンを その子に残して持ち帰りました。
人懐っこくて 甘えん坊で可愛い子だと思っていたその犬は、
授業中 窓の外の田んぼ道を ぼんやり見ていたら 他の野良犬数匹をまとめて 先頭に立って 引き連れて歩くのが見えました。どうやらその野犬グループのボスみたいでした。
なんだか 遠くから見てても 颯爽としていて かっこよかったです。
それを見てから その犬にも話しました。
「すごいね!ボスだったんだね!」
むかしから こんなふうに 自然や動物たちから いろんな景色を教わりました。
母に対しては、裏切られたという思いもわいてきて 少し世の中が歪んで見え始めた頃でした。
世界中がみんな敵だと思うようになります。
それもまた 『成長』と呼ぶんです。
すべてが 死ぬまで ずっと『成長過程』です。
𝓽𝓸 𝓫𝓮 𝓬𝓸𝓷𝓽𝓲𝓷𝓾𝓮𝓭
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