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Ray Charles - S,T(1956)

レイチャールズの記念すべきアトランティックでの一作目。アトランティックのレイはあらゆるジャンルの音楽を飲み込み自分の物とする勢いに溢れていました。もちろんABC移籍後のカントリーやスタンダードを歌うときの胸を打つ歌唱、80年代以降の歳を重ねることによって生まれた滋味あふれる歌唱もまた違った良さがあっていいのは言うまでもありません。本作は移籍後すぐの52年から56年の録音をまとめたものでナットキングコールとチャールズブラウンの模倣からアイデンティティを確立しパワーみなぎるR&Bを歌い、バラードにもレイらしさがにじみ出るようになるまでの記録が刻まれています。

メンバーは詳細は不明ですが52年までの録音はNYでサムテイラー(ts)デイブマクレー(ds)ミッキーベイカー(g)らが参加し、53年にはニューオリンズへ行きビルフィッシャー(ts)ら現地のミュージシャンと54年以降は自身のバンドとの録音になります。自身のバンドはデイヴィッド"ファットヘッド"ニューマンやドナルド(ドン)ウィルカーソンがいたと思われます。

Ain't That Love
タンバリンやコーラスからゴスペルの要素を感じる一曲。ただしディープさはまりなくのんびりとした曲調です。56年録音

Drown In My Own Tears
ジャズの要素の強いバラードナンバー。どうしようもない悲しさ、切なさが伝わってきます。後半のレイジーなコーラスも短いながらも印象にのこります。ファンクバンドのウォーのキーボード奏者ロニージョーダンがこの曲をお気に入りに挙げていたのが印象的です。55年録音。

Come Back Baby
この頃のレイらしいジャズバンドのような編成でのブルース。54年アトランタでの録音。

Sinner's Prayer
53年録音。かつてのボスであるローウェルフルソンの曲で不健康なサウンドがとてもかっこいいです。

Funny (But I Still Love You)
ルーズなブルースナンバー。オーソドックスなジャズフレーズにトリッキーなフレーズを織り交ぜたギターはおそらくミッキーベイカー。こちらも53年

Losing Hand
こちらも上記と同じ日の録音。ここでもミッキーベイカーのギターが光ります。ニューヨークのセッションミュージシャンの第一世代ともいえる彼にもっと注目が集まってほしいです。渋いテナーを聴かせるのはおそらくサムテイラー。彼もまたセッションミュージシャンの第一世代。

A Fool For You
55年録音。自身の固定バンドを持ったからか歌にも演奏にも磨きがかかり深みが増しています。

Hallelujah I Love Her So
ロックンロールの古典ともいえる一曲。キレのいいリズムとバリトンサックスの厚みのある伴奏がかっこいいです。55年録音

Mess Around
威勢のいいジャンプナンバー。バリトンの荒っぽい演奏やストライド風のピアノソロの勢いが実にかっこいいです。53年録音

This Little Girl Of Mine
こちらもロックンロールに通ずる軽快なノリがかっこいい一曲。リズムがほんのりラテン調なのもとても良いです

Mary Ann
ラテン調の一曲。アルバムを通して聞くと改めてレイのなんでも演奏しようという雑食性が浮き彫りになります。

Greenbacks
ジャイブ風の粋な一曲。バックの軽くスウィングする演奏が実に洒落ています。

Don't You Know 
ニューオリンズ録音の一曲。ルイジョーダンのようなジャンプナンバーですがニューオリンズだからかどこかのんびりとしています。

I Got Woman
代表曲の一つ。軽快なジャンプナンバーでここからロックンロールに繋がっていきます。

コネクション:ドンウィルカーソン
レイのバンド出身の著名なサックス奏者といえばデイヴィッド"ファットヘッド"ニューマンとハンククロフォードで、その二人から大きく開けてドンウィルカーソンが上がると思います。レイは自伝の中でバンドメンバーとしてはデイヴィッドに次ぎ、彼の名前を上げてその才能を称賛していることからかなり気に入っていたと思います。退団後はブルーノートで3枚作るも麻薬で逮捕。刑務所内では囚人バンドを組みドクタージョンともバンドメイトだったそうです。その後消息は不明ですが、ある本によると地元に戻り細々と音楽活動をして70年代頭に亡くなったそうです。デイヴィッドやハンクが晩年になっても一線で往年と変わらないスタイルで演奏していたのとは対照的ですが、出所後の彼が麻薬ときっぱり別れて幸せに暮らしていたことを願わずにはいられません。