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愛を求めて

マズローの欲求段階説をご存知だろうか。

アメリカの心理学者であるマズローが、人間の最上位の欲求が自己実現欲求だという前提のもとで、人間の欲求を5段階に定義し、理論化したものである。

下から一つずつ見ていこう。既知の方はしばらく飛ばしてください。

「生理的欲求」
人間が生命を維持するための基本的かつ本能的なものだ。食事、睡眠、排泄、加えて性欲。

「安全の欲求」
自分の身に対する安全性を求めるものである。肉体的なものに加えて、経済的なものも含まれる。何事に対しても大方予測が可能で、秩序のある状態を求めるものだ。

「所属と愛の欲求」
「社会的欲求」と表されることもある。「生理的欲求」「安全の欲求」が十分満たされていると、現れるもので、自身が社会において必要とされる感覚を求めるものだ。現代社会において精神的疾患を持つ人が急増している問題があるが、その原因の一つとしてこの欲求を満たせていないことが挙げられるだろう。

「承認の欲求」
自身が所属集団において価値のある存在だと認められ、尊重されることを求めるものだ。この欲求段階は二つに分けることもでき、低次なものは、他者からの評価に依存し、高次なものは自身からの評価に依存する。

「自己実現の欲求」
これまで挙げた四つの欲求を全て満たした上で、人は自己実現欲求を満たすことができると言われる。

どうやらこの理論は科学的に実証されたものではないようだ。勿論、一学者の尺度なので、共感できる部分や反論があるのは承知の上だが、ここまで世界中で広く共有されているものだと、何かしら個々人の日常においてなるほどと思う部分は多いのだろう。

さて、あなたはどの欲求段階にいるだろうか。近年、やたらと自己実現に焦点を置く風潮があると私は思う。自分に合ったワークスタイルを求めたり、起業を薦めたりと、自分の世代だけかもしれないが、自分の夢を叶えようとか、自己成長を促すようなフレーズがたくさん聞こえてくる。背景には、成功者的な人間がSNS社会において目立つようになり、彼らが自分の成功体験などを伝える場が増え、人生のゴールとしての指標的ものが分かりやすく、かつ多様化してきたという点はあるのではないだろうか。ただその全員が実際に成功者なのかは分からないが。

この風潮は人々の自己実現欲求を促進させるもので、自身の目標や夢を成就する人間が増えれば、社会的な幸福度が上がるのではないかなどと思ってしまう。ただ実情は異なるような気がしている。

自己実現を求めるのはいいが、求める人間全てが「自己実現欲求」の前提となる四つの欲求を満たしているとは言えない。日本においては、低次の「生理的欲求」「安全の欲求」を満たせないことはほとんどない。先進国の強みである。しかし、「所属と愛の欲求」「承認の欲求」はどうだろうか。思い当たる節はたくさんあるだろう。

結論から言うと、この「所属と愛の欲求」「承認の欲求」をすっ飛ばして、「自己実現欲求」を満たそうと奔走する人間が多いのではないかということである。

「夢を叶えよう!」「自分らしく生きよう!」

耳障りのいいことばかりを聞いては実現できるものも実現できない。それまでの過程が何より重要なのである。それは努力の過程などではなく、自分の社会的役割をある程度担保し、他人からの愛情を受け、社会ないし所属するコミュニティにおいて価値のある人間だと尊重されることが、自己実現の過程として重要なのだ。

と長々と自論を展開した時に、とあるフットボール選手のことが、皆さんの頭に浮かんでくるだろう。

そう、Mirko Antonucciだ。

@mirko_antonucci

現在SerieBのCesenaでプレーする彼は、数年前に見せたブレイクの兆しを再び見せ始めた。といっても、もはや若手選手ではないのだが。

22-23シーズンのCittadellaでの躍進ほどではないが、出場機会も徐々に増え、チームに大いに貢献している(と信じている)。

2年前、彼はSerieAに戻ってプレイをしたいと語った。あの年、個人昇格があり得ると思われたが、結果的にSerieBに残留し、今も主戦場は変わらない。

SerieAに戻るという自己実現をするために懸命に戦うMirkoだが、とりあえずパートナーがコロコロ変わるのだ。やはり継続的に「所属と愛の欲求」が満たされなければ、難しいところはあるのかもしれない。

3年前に愛娘も生まれ、当時の配偶者と生涯を共にすると思われたが、1年半程で別れ、その後新しく付き合い始めた女性とは数ヶ月前に破局したことがわかった。そして、今月。新たな女性と愛を育み始めたことが彼のSNSで明らかになった。

深刻な愛情不足なのだろう。大人しく実家に帰ってマンマのパスタで愛を感じればいいものを。

@mirko_antonucci
@mirko_antonucci

彼の今後の人生に幸在らんことを。そして、愛情に満ち足りた生活を送らんことを願って、遠く極東の地から今日も彼を見守ろう。


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