水の空の物語 第2章 第30話
そうだ、もうひとつと、月夜はもう一度ぽんぽんする。
「パパが『お客さん』連れてきたぞ。茶色のうさぎだ」
うさぎ?!
風花は目をむいた。
『お客さん』とは、風花の父親が、職場から預かってくる動物のことだ。
父親は獣医で、動物がいる公園で働いている。うさぎやりす、鹿などがいる公園だ。
鹿や台湾りすの数が多く、広いスペースで飼育されていて、ふれあうことができる。
風花は台湾リス広場が好きだ。
その職場で、目が離せない仔がいるときに、連れて帰ってきて世話をすることがあるのだ。
「う、う、うそっ。見たいっ!」
「じゃあ、早く帰ろう」
うれしいんだなと、月夜は満面の笑みを浮かべた。
月夜は自転車に跨がり、アスファルトを蹴る。風花も後に続いた。
下り坂なので、自転車はすいすい進んで行く。
青い闇の中をくぐっていく。冷たい風が流れ、過ぎていく。
夏澄くんは、海の底のような悲しげな色の瞳をしていた。
わたしはなにもしてあげられなかった。
風花は空を見あげた。
銀色の星は優しく、まぶしかった。
……夏澄くんの願いが叶いますように。夜空に向かって祈った。
わたしもがんばらなきゃと、つぶやいた。
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