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水の空の物語 第4章 第3話

「夏澄は時間がある限り、春ヶ原を見護っているよ。今日は二時間くらいだったかな」

「なにか分かった?」
「いや……」

 今日は春ヶ原にあの風は吹かなかった。事が起きなければ、原因も探れない。

 飛雨は続けた。

 なぜなんだろう。

 やっばり、春ヶ原を傷つけたい誰かがいるんだろうか。

 でも、草花ちゃんはあんなに優しい子だ。
 優月さんたちだって、身を削って春ヶ原を護っている。

 泣きべそをかいていて、うさぎたちを護ろうとしていた草花が思い出された。

「あんな夢みたいにいい場所、襲われる理由なんてないのに」

「夢だからこそ、いろいろあるんじゃないか?」

 飛雨は風花に背を向けたままつぶやく。

「どういう意味?」

「夢は儚いってこと。夢の裏には厳しい現実があるんだよ」

「意味が分からないよ」

 訊いても、飛雨の返事はなかった。

「夏澄がさ……」
 飛雨は天井を見たままだ。

「夏澄はさ、もしかしたら、自分の故郷と春ヶ原を重ねて見ているのかもしれない」

「飛雨くんもそう思うんだ……」

 風花はうつむく。夏澄の瞳の翳りが思い出された。

 優しい植物と動物が暮らしていて、花がいっぱいで水がきれいな野原。
 春ヶ原を見たとき、風花は夏澄の故郷を連想した。

 きっと、夏澄も同じだ。春ヶ原と自分の故郷を重ねた。

 だから夏澄はきっと、優月たちとおなじくらい、春ヶ原が傷つくことを恐れている。

「なあ、風花。夏澄のためにも春ヶ原の夢を護ろうな。力を尽くそう。風花も協力してくれな」
「うん……」

「夏澄の故郷を元にもどすのは簡単にいかない。ずっと昔から叶わないんだから。これから、もっと時間がかかるなら思う。……でも、春ヶ原が護れれば、夏澄の救いになると思うんだ」

 夏澄くんの救い……。

 わたしも、優しい夏澄くんの悲しみはひとつでも多く消したい。

「ねえ、夏澄くんはどうしてる?」
「だから、北の渓谷と春ヶ原に行ってきた」

「そうじゃなくてさ」

 夏澄くんの心の様子が気になるのだ。




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