水の空の物語 第4章 第11話
「風ちゃん、ほんと楽しそうだね。いいなあ」
ひろあが上目遣いで風花を見る。
「それ、想い出ノートに書く?」
「ひろあー」
香夜乃が眉を寄せる。
「詮索はだめだよ」
「そんなんじゃないよ。せっかく想い出ノート作ったのに、みんな書いてくれないんだもん」
風花たち三人は入学記念に、日記帳のようなノートを作った。
高校生活はきっと楽しくなる。それをしっかり書き留めたい。そんな気持ちからだった。
入学したばかりの頃は書くことが多かった。なにもかも新鮮で楽しかった。ひろあに彼氏ができたし、香夜乃は日舞を習い始めた。
だがそのうち、書くべき出来事は起こらなくなった。
本当は、風花は書きたいことがたくさんある。
夏澄のことを、毎日がこんなにきらきらしていることを、書きたくて書きたくて仕方ない。
だが、夏澄のことは、香夜乃たちには秘密だ。
「いいことないかなー」
ひろあがぼそっという。
沈黙が流れた。
「そういえばさ……」
風花は声を張り上げた。
「今度、駅前のデパートで平安時代がテーマの展覧会があるんだって。香夜乃、そういうの好きでしょ。行く?」
「……行きたい」
香夜乃は目をみはった。
「じゃあ、みんなで行こう。展覧会のあとはケーキバイキングに行こう。楽しいことをしよう。今日のお礼にわたしが奢るよ」
風ちゃんー、と、ひろあが肩を揺すってきた。
「あ、もう行かないと。日舞の時間だ」
香夜乃が自転車に駆け寄る。
「あたしも、今日は貴人くんの練習を見て行くんだ」
ひろあの彼氏はバスケット部のエースだ。名取貴人といい、学年は三年だ。
「じゃあ、また明日」
約束ね、と、いい、風花たちは手を振りあった。
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