水の空の物語 第5章 第45話
優月の体から、悲しみの霊力が何度も何度も、放出される。
霊力は風のように流れて、周りの全てに吹きつける。植物が全て萎れて、何度も霊力を浴びた木々の葉は枯れて落ちていく。
緑でいっぱいだった藤原の御泉公園が、朽葉色に染まる。
優月の瞳が悲しみを映す。
布団の中でうとうとしながら、風花はまたそんな想像をしてしまった。
もう嫌だと、枕に頭を押しつけて、うつ伏せになる。
時計の針は三時を差していた。
嫌な想像ばかりしてしまい、風花は全然眠れないでいた。
もし、さっきの想像みたいなことが起きたらどうなるだろう。
風花は布団を握りしめる。
藤原の御泉公園は、だいじょうぶだろうか。
霊力を出し過ぎて、優月さんは疲弊しないだろうか。 公園の植物が枯れたら、優月さんはもっと傷つくだろうか。
布団を握る手に力が入る。
涙が出そうになり、風花は布団を額までかぶった。
「だいじょうぶ、そんなわけない」
大人なスーフィアさんが、優月さんを見守ってくれている。
夏澄くんたちだってついている。
風花は霊泉の結界の中にいるはずの、夏澄たちの姿を想像してみる。
きっと、癒やしの霧にもたれて、みんなで眠っているはずだ。
きっと、だいじょうぶ。
……もう、嫌だ。
風花は心で何度も繰り返す。
ゆっくり呼吸して、なんとか眠りに落ちようとした。
ひとつ、ふたつ、みっつ……。
藤原の霊泉近くの大木の上に、ひとつの影があった。
前に水の精霊の様子を窺ったときのように、影は樫の太い枝に腰掛けている。
幹に深くもたれ、星を数えていた。
光るものは好きだ。
かすかな星明かりでも、心魅かれるものがある。
影は霊泉に視線を向けた。
水の精霊たちはもう眠ったようだ。今日の水の精霊は、いつもにも増して隙だらけだ。
ニ、三度、自分の霊力を放っているのに、気づく様子がない。
今朝方やって来た木の精霊に、気持ちを乱されているのだろう。
やっと、悲しみの霊力の主が木の精霊だと気づいたらしい。
水の精霊たちは、この自分を疑っていたこともあったようだ。
「どう思われようと構わないが」
自分が手出しはなどするはずがない。もう随分長い間、ただの傍観者なのだ。
たぶん、これからしばらくだってこのままだ。
……木の精霊の霊力は弱い。
だから、水の精霊の状況に変化はない。
このことに関して、報告の必要もないだろう。
影は立ちあがる。
だが、夜空の星に心魅かれた。
よっつ、いつつ、むっつ、ななつ……。
また、星を数えはじめた。
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