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水の空の物語 第6章 第9話

 優月は夏澄に頭を下げて、向きをかえる。

 そのとき、枯れ葉を含んだ風が吹いた。 優月が放つ冷たい風だった。

「ねえ、優月さんっ」

 風花はかまわず、優月に駆け寄った。

 体の力が抜けて、風花はひざをついた。

 風力が強くなる。

 風花の体が押される。風花は体勢を崩して、地面に体を強く打った。

「風花っ」
 悲鳴のような声をあげ、夏澄が駆け寄る。

「ありがとう、だいじょうぶ」

 風花は立ち上がったが、ぐらっと視界が傾く。
 え? と思う間もなく、目まいがして、地面に両手をついた。

 夏澄は両手を水色に光らせる。風花の背中に当てた。

「守護の霊力が弱かったみたいだ。張り直させて、風花」

 やがて、焼けるようだった苦しさは引いていった。
 安堵したように、夏澄は大きく肩を落とした。

 だが、すぐに立ち上がり、瞳を閉じる。

 彼の体から放たれた水色の光が、辺りを巡る。照らすように広がった。

 スーフィアも、自分の霊力で周りを満たした。
 荒れ狂うように吹いていた風が、収まり始めた。

 振りかえった風花は、優月で目を止めた。

 優月は木々の間に横たわっていた。

 苦しげに瞳を見開き、信じれないというように、体を強張らせている。ただ風を見つめていた。

 やがて、風が止む。

 風花は息をつめて、両手で口元を覆った。

 霊力を放ちすぎたからか、優月の姿は、ほとんど見えなくなっていた。

 彼は怯えるように、自分の体に視線を向けていた。

 やがて、彼の姿は霞むように消えた。



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