水の空の物語 第2章 第5話
「実はさ、私もうまく行ってないんだよね……」
ふいに香夜乃が声をかすらせた。 深くベンチにもたれて、ため息をつく。
「なんか、思ってたのと違うんだよね。先生が厳しすぎてさ」
「え? 香夜乃のほうもだめなの?」
「ちょっと姿勢崩すと、すぐ怒鳴られるんだよね。私が悪いんだから仕方ないけど、あんなに厳しい世界だと思わなかった」
「香夜ちゃんが我慢できないなんて、怖いトコだね。……もう。せっかく高校生になったのに、どうして、こうなるんだろうねー」
香夜乃とひろあは、ぐったりとベンチにもたれる。
そのまま空を眺めていた。
「でも、やめるのはもったいないよ。香夜ちゃん、着物似合うし」
香夜乃は、長い黒髪が似合う日本美人だ。時代劇の姫のように立ち居振る舞いがきれいで、特に歩く姿が人目を引く。
「日舞は夢だったんだしね」
「そうだよね、がんばらなきゃいけないよね」
香夜乃は勢いをつけて、ベンチから立ちあがった。
「がんばろうか、ひろあ」
「う、うん。あたしも、貴人くんは大好きだしね」
ひろあはいって、少しだけわらう。
「……わたしもがんばろう」
風花はつぶやいた。
せっかく庇ってくれた夏澄くんのためにも、がんばらなきゃならない。
ただの人間でも、きっと霊力くらい使えるようになる。
「なんで、風花まで頑張るの?」
香夜乃が、わらい含みでいった。
「いいじゃん。みんなでがんばろー。んで、いつかお祝い会、開くんだよ」
ひろあの明るい声が響いた。
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