水の空の物語 第1章 第24話
「だいじょうぶだよ、夏澄くん……」
風花は声に力を込めた。
「水の精霊の国、きっと元にもどるよ」
「ありがとう」
夏澄は、心底嬉しそうにわらった。
「もしもどせたら、わたしにも教えてね。……わたしもね、水の精霊の国が見てみたい。わたしね、この世で一番きれいなものは、水だと思うんだ」
風花の言葉に、夏澄は少し驚いた顔をする。じっと風花を見つめた。
「今の言葉……」
「え?」
「今の言葉、もう一度いってもらっていい?」
意味が分からなかったが、風花はいわれた通りにする。
「もし、水の精霊の国が元にもどったら……」
「最後のほう」
「わたし、この世で一番きれいなものは、水だと思う」
いい終わった時、夏澄は泣きそうな顔をした。
「……何度も何度も、風花はおなじことをいうんだね」
穏やかに風花を見つめる。なぜか、ずっとその視線を外さないでいた。
揺れない水面のような、静かな時間が過ぎていった。
「ねえ、風花……」
夏澄はふしぎな響きで、風花の名前を呼んだ。
「水の精霊の国、幻術で見せてあげようか? きっと気に入るよ」
「え、ほんとに?!」
うれしくて、風花は身を乗り出した。
ふいにスーフィアが立ちあがった。
「夏澄、冷静にならないと……」
夏澄は、はっとしたように瞳をみはる。
「でも、もう一度」
「もう、すっかり夜よ」
「……ごめん」
夏澄は立ち上がった。飛雨になにかを瞳で合図したあと、川上のほうに歩き出す。
どんどん風花から離れて行った。
飛雨とスーフィアは留まっているのに、夏澄だけ離れていく。
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