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水の空の物語 第5章 第34話

 一輪の花は、春ヶ原の花々に比べたら、目立たないかもしれない。

 だが、春ヶ原を越える風景なんて、風花の街にあるはずない。

 それでも風花なりに、優月を癒せそうなことを探した。
 それで、やっと見つけたのが、この秋桜だった。

「どう? 優月さん」
 風花は優月の表情を伺う。

 気に入ってくれたかな、気に入ってくれたかな……。

 優月は秋桜の前にすわった。

 花を覗きこむ。

「春の秋桜もいいものですね。草花にも見せてあげたいです」
 いいながら、風花を振りかえった。

 風花はつい、優月の表情を見つめた。

 優月の瞳に熱がこもった気がしたからだ。草花の話をするとき、優月はよくこんな顔をする。

  もしかして優月さんは……。 

 優月さんは草花ちゃんのことが好きなのかもしれない。 

 夏澄とスーフィアが秋桜の前にすわった。

「なんだか奇跡の花みたいだね。きれいだよ、風花」

「本当にきれいね。風花、わざわざ探してくれたのよね。ありがとう」

 風花はうつむいて、わらった。

 喜んでもらえるか、少し不安だったのだ。

「土手にはね、春紫苑やたんぼぽも、まばらに咲いてるよ。それから、川原の早乙女葛もすごいよね」

 風花は川原を指差す。

 あとね、と、優月たちを振り返った。

「次はゲームをしない? 体を動かすのは気持ちがいいよ。……私ね、かくれんぼがいいと思うの。人目をつかないで遊べるでしょ?」

「かくれんぼ?」

 夏澄は首を傾げる。

 ああ、あの遊びだと、声を弾ませた。


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