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水の空の物語 第1章 第15話

「お、おい、夏澄」

 飛雨が声をうわずらせる。

「出てきたらだめだよ」
「ごめん。でも……」

 夏澄は風花の体を起こし、幹に寄りかかるようにすわらせた。

 擦りむけた風花のひざに手をかざす。すると、なぜか痛みが引いていき、傷も消えていた。

 夏澄はほっとしたように肩の力を抜く。春のように優しく微笑んだ。

「今のは癒しの霊力だよ。初めまして……、でいいかな? 風花」

 近くで見ると、青い瞳は透明感があった。瞳の奥が深い青に揺れている。

 ありがとう、といいたいのに、風花は言葉にできない。

 心がくらむ。
 夏澄のすべてがきれいすぎて、幻のようだ。

 夏澄は風花の手から桜の枝を抜いた。折れた部分を元のように木につける。また手をかざした。

「待って」

 スーフィアがふわっと跳んで、夏澄のとなりに降り立った。

「私が癒すわよ。あなたは今、幻術でここを外から見えなくしているでしょ。無理はだめよ」
「いや、オレが癒す」

 飛雨も駆け寄ってきた。

「飛雨は癒しの霊力はないでしょ」
「夏澄にオレの霊力を送って、それで癒すんだ。そうすれば夏澄に負担はかからない」

 スーフィアはため息をついた。

「なんで、そんな遠回りしなきゃならないの?」「だってオレ、今日なんにもしてねーもん」

「あ、あの……」

 風花は声をかすらせて、一歩踏み出す。
「わたしもなにか手伝いを……」

 飛雨は疎ましそうに眉を寄せる。
「お前は霊力ないだろ」

「気にしないでいいのよ。風花」

「でも、桜を折ったのはわたしで……」

「夏澄、オレとやろう。オレとだ、オレと」
 飛雨は折れた枝の真下に立った。

「……じゃあ、みんなでやろう」

 やわらかい夏澄の声が響いた。夏澄は嬉しそうに瞳を細め、風花たちに視線を巡らせる。

 風花の手を取って自分の手と重ね、枝に当てた。



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