水の空の物語 第6章 第21話
桃色の大地と、流れる風に舞う花びら。青い泉と小川。
春ヶ原に来るのはまだ三度目だが、やはりなつかしい風景だ。
人の心の中に、昔から住んでいる想い出の風景に近いのだ。
風花はまぶしく春ヶ原を見つめていた。
優月は元気そうだった。
見護るように、草花たちの傍らにいる。本当に幸せそうに見える。
草花は笑顔いっぱいで小毬を抱き、立貴は静かな表情で昼寝をしていた。
小川の水音が響いていた。鈴を思わせる、弾んだ音をたてて流れていく。
泉の端で、風花は一人、足をひたしていた。 泉からは、優月たちの様子がよく見えた。
「風花、どうしたの? ぼんやりして」
スーフィアが隣に舞い降りてきた。ふわっと、金の髪が波打って揺れた。
「いえ……。みんな元気そうでよかったなって」
本当よねと、スーフィアは空を見上げる。
「春ヶ原が変わりなくてよかったわ。こうやって招待してもらえるまで、不安だったの。……優月は幸せそう。でも……」
スーフィアは優しい瞳をして、風花を見る。
「風花は、優月が幸せだと思えないのよね」
悲しげに瞳を細めた。
「思えないって……」
急に訊かれ、風花はうつむく。
言葉が見つからなかった。
「私も同じよ、風花。優月はこれからも、きっとつらい思いをするものね」
いたわるような優しい瞳で、スーフィアは風花を見た。
スーフィアは手を泉に浸すと、愛おしそうに、指先で水面に輪を描く。
彼女は、急には立ち上がる。
肩の布を外して風花を包んだ。
桃色の透き通るような薄い布で、スーフィアはそれを天女のように肩から掛けていた。
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