水の空の物語 第4章 第19話
「風花ー、お友達よーっ」
母親のゆり音が、階下から風花を呼ぶ。風花はあわてて、階段を駆け降りた。
「どうしたの? 飛雨くん」
いつも飛雨は、人目を避けて、夜中に窓から来る。今日は、宵に玄関からだ。なにかあったのだろうか。
「う、ん……。ちょっと、外で話せるか?」
分かったと、靴を履こうとした風花を、ゆり音が止めた。
「そんなこといわないで、あがってらっしゃいな」
「い、いえ。もう夜ですし、……よ、用事が済んだら帰りますので」
なぜか、飛雨の声は裏返る。
いつもに比べて、ずいぶん礼儀正しいなと、風花は思った。
「いいよ、ママ」
どうしてーと、ゆり音は拗ねた顔をする。
風花よりも長いウェーブの髪を、指でくるくる巻いた。
「初めてくるお友達じゃない。だったら歓迎したいわ。もしよかったら、私のヴァ……」
「ヴァ……?」
飛雨がふしぎそうに繰り返した。
ヴァイオリンを披露する……、ゆり音はそういいたかったのだ。
彼女はいつも、風花の友達に曲を聴かせようとする。わるいことではないが、急にいわれたら飛雨だって戸惑うだろう。
ゆり音はセミプロの音楽家だ。野外を中心に、ヴァイオリンやフルートなどを、相手の好みに合わせて演奏している。
「ありがとう、ママ。でも演奏は、今度ゆっくりね」
風花は飛雨の背中を押し、一緒に玄関を出た。
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