水の空の物語 第6章 第15話
「おいで、ビー玉、竹とんぼ」
草花は小さな声でつぶやく。寝言のようだ。
「今日は泉で水浴びだよ。優月と立貴も一緒に遊ぼうね」
うれしげだった。楽しい夢を見ているようだ。まるで、今荒れている春ヶ原のことを知らないようだった。
「ねえ、立貴くん。草花ちゃんは風が起きる前から眠っていたの?」
立貴は黙ってうなずく。
なぜだろう。
でも、おかげで草花ちゃんは、春ヶ原を傷つけたのが優月さんだとは気づいていない。
「優月さんが眠らせたの?」
立貴は首を振り、自分を示した。
立貴くんも優月さんも、草花ちゃんと動物のみんなを悲しませたくなかった……。
だから、彼らは眠らせたんだ。優月さんは今までとは違う霊力の風を生み出したんだ。
……草花。
風に乗るようにして、かすかな声がした。
はっきり聞き取れないが、きっと優月の声だ。
……草花、傷つけてごめん。
もう二度と、こんなことはしない。
優月の声は、深く深く、風花の中で響く。とても悲しい、それでも包むように草花を想う声だった。
……本当に本当に、優月さんは草花ちゃんが好きなんだ。想いが届かなくても。
風花は春ヶ原をぐるっと眺めた。春ヶ原は夏澄たちの霊力で、すっかり元にもどっていた。
目に鮮やかな、桃色の野原。それを囲む花をつけた木々。
花びらが降り、暖かな日射しが優しく照らす。
春ヶ原を廻る川は澄んだ水色で、ところどころ花を映し、桃色になっていた。
動物と植物が仲良く暮らす、夢のような世界。
春ヶ原も優月の想いも、泣きたいくらいに美しいと思った。
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