水の空の物語 第5章 第4話
「それにさ……」
飛雨は表情を消し、天井を見る。
「春ヶ原の風の霊力は弱いぞ。もし、夏澄に当たったとしても、夏澄なら蚊に刺されたようなダメージしか受けないよ」
「じゃあ、わたしだっていいでしょ」
風花は身を乗り出した。
「それは無理。ただの人のお前が受けたら、天国行きかもしれないぞ。オレだったら、寝込むくらいかな」
風花は青ざめた。
優月が霊力を受けたとき、体調を崩しただけだと聞いていたから、自分もその程度で済むと思っていた。
「なんか、思ってたより危ない……。飛雨くん、だいじょうぶなの?」
「オレは鍛えてるから、華麗に避けられるよ。防御もできるし。オレとスーフィアに任せておけばいいんだよ」
「万が一ってことがあるよ。もし、夏澄くんが怪我したらどうするの?」
飛雨は目を見開く。
硬直したように動かなくなった。
「万が一……」
飛雨は繰り返した。
ふいに、不安気に眉根を寄せる。 そわそわと布団を転がった。
「それはー……」
「ねっ。だからわたしも防御しないと」
風花は、飛雨に詰め寄った。
ゆっくりうなずきかけた飛雨だったが、あわてたように背を向けた。
「い、いや、だめだ」
「でも……」
「風花は今の自分にできることをしてくれ。……霊力の訓練だってそうだ。焦らないで、ゆっくり変わることが大事なんだぞ」
「でも……」
そんなんじゃ、夏澄くんの役に立てない。 こんなに大事なときなのに。
春ヶ原を護りたいし、春ヶ原と自分の故郷のことを重ねている夏澄くんを助けたい。
風花は肩を落とした。
どん、と、気分が重くなった。
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