水の空の物語 第2章 第8話
長い坂道を、風花は自転車で登っていた。
やっと見えた駐輪場に滑り込み、自転車を停める。呼吸を整えながら、顔をあげた。
風花が向かう先には、小さな公園がある。
橋を渡ると、ぬかるんだ地面が続く。大きな湧き水の泉がある公園だ。
木道を渡っていくと、その泉につき当たる。 周りは木々に囲まれ、鬱蒼としている。
湿気を含んだ空気と一緒に、水の香りが漂っていた。
泉は、夏澄たちと待ち合わせした霊泉だ。
風花がさっきまでいた図書館からは、自転車で一時間かかる。しかも、道の半分は登り坂だった。
山の裾野の、人家が途切れる辺りに霊泉はあった。
見かけは、湧き水の湧く小さな公園だ。藤原の御泉公園と呼ばれている。
「風花っ!」
明るい、弾んだ声がした。
夏澄が泉の横に立って、風花に微笑んでいた。
後ろに、スーフィアたちもいる。
夏澄の水色の髪と青い瞳が、陽射しを受けてきらきら輝いていた。
「夏澄くんっ!」
いっぺんに、風花は笑顔になる。昨日逢ったばかりなのに、ずいぶん久しぶりな感じがした。
夏澄の優しげな仕草も、透きとおった瞳も、やはりまぶしい。
風花は目を細めた。
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