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水の空の物語 第6章 第28話

「風花ー、スーフィアー!」

 ふいに、夏澄の声が響いた。彼は立ちあがり、風花たちに手を振っていた。

「そんなところでどうしたんだーっ? こっちおいでよーっ!」

 来いといっておいて、夏澄は風花のほうに跳躍してきた。優月も後に続いてくる。

「女同士で秘密の話?」
 夏澄は青い衣を揺らして着地する。

「そんなんじゃないわよ」

「ここは春ヶ原全体が見渡せるね」

 表情を明るくして、夏澄は春ヶ原を眺めた。風が流れて花びらが舞ってきた。

「また遊びに来てください。夏澄さん、スーフィアさん」

 優月は淀みのない声を響かせる。

「風花さんも」
 いって、風花に向きなおった。

「……ねえ、優月さんは幸せ?」

 風花はそっと訊いてみた。

「ええ、とても」

 優月は春ヶ原を眺めて、陽だまりのように微笑んだ。品があって優美で、これが彼の本当の笑顔なんだと思った。

 現実が厳しくても、草花ちゃんに叶わない恋をしていても、優月さんは春ヶ原を愛おしんでいる。

 優月さんは優しくて強い。きっと本当に幸せなんだ。

 風花はやっと、そう思えた。

 同時に淋しさが風花の心を覆う。

 夏澄と風花の心から、なにかが欠けてしまったと思った。

 まぶたの裏が潤んで、辺りの風景が薄い水色に染まる。もう少しであふれ出しそうだった。

 大きな大きなものが消えてしまったようで、淋しくて仕方ない。

 この世界を流れる大気にさらわれて、空の向こうに吸い込まれるように消えてしまった大きなものは、もう二度ともどらない。



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