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水の空の物語 第4章 第1話

第四章  春ヶ原と精霊たちの心

 真っ暗な自室で、風花は正座をしていた。

 目を閉じて、瞑想をしている。

 もう一時間はこのままだ。足が痛くて仕方なかったが、耐えるしかなかった。

「どうだ?」
 隣に立っている飛雨が訊いた。

「こう……、体の中にふしぎな力が湧いてくる感覚ないか?」
「分からない……」

 飛雨は無言でうなずいた。暗いので、表情はよく見えない。

「まあ、気にすんな。そんな簡単に霊力は出てこないよ。気長に行こう」
「うん……」

 風花は肩を落とした。

 いくら説明されても、瞑想も、霊力の感覚も分からない。

 あるのかないのか、霊力が芽生えたのか駄目なのか、それすら分からない。
 考えすぎて、頭の中がぐるぐるとまわる。

 どうやって、霊力を出すの?

 訊くと、飛雨は手を動かすのと同じ、と答える。手は動かそうと思えば自然に動く。
 それと同じで、出そうと思うと出てくる。とにかく瞑想で心を落ち着けて、出そう出そうと思うしかない。

 飛雨はそんな雑な説明をくれるだけだった。

「そうだ。……念のため、手に力入れてみ」

 風花は腕を飛雨のほうに突き出し、いわれた通りにしてみる。

「光らねーな」
 闇の中、飛雨はつぶやく。

 少しでも霊力を放てば、手からオーラのようなものが出て光るらしいのだ。

「そろそろ、休憩しよう」

 飛雨はいい、部屋を大股で横切ると、ごろんとベッドに寝転んだ。
 風花のベッドだ。

「今、何時だ?」

 花模様の掛け布団の上を転がる。

「午前零時だね。……ありがとう、こんな遅くまで」
「いや、いいよ。大変なのは風花のほうじゃないか? もう連続だよな。学校って忙しいんだろ?」

「わたしはだいじょうぶ」
 風花はあわてていった。

 一週間前。

 春ヶ原に行った、翌日の夜中のことだった。約束もなしに、霊力の訓練をしようといって、飛雨が来た。

 そろそろ眠ろうと、風花が灯りを消した途端に、誰かが窓をノックしたのだ。続いて、風花の名前が呼ばれる。

 押し殺したような小さな声は、妖怪を連想させた。

 風花は飛び上がりそうなほど驚いた。

 すぐに飛雨だと気がついたからよかった。そうでなかったら、警察を呼ぶところだった。



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