水の空の物語 第2章 第13話
「……どんな泉だったの?」
自然と、風花の声にも感情がこもった。
「水の精霊の国の、空に浮かんでいた泉だよ。空のずっと高いところで、泉が湧いていたんだ。湧いた水は落ちないで宙にとどまっていて、泉になっていたんだ」
「夏澄くんの故郷って、ふしぎなことばかりだね」
「風花の世界からは想像できないことだよね。でも俺は、すごく尊いことだと思うんだ」
だって、空に泉が湧くんだよ? どんな霊力の作用なのか、湧き水はどこから来るのか、全然分からないけど。
まるで、奇跡みたいなんだ。浄くて浄くて、愛おしいんだよ。
心底うれしげに、夏澄は続けた。
風花の目の前を、霧が流れていく。
霧に触れても、手が湿らないことに風花は気づいた。これなら、いくら寄りかかっても、服や髪は濡れないだろう。本当に癒してくれる霧なのだ。
夏澄くんの周りは、ふしぎなことばかりだ。
「泉は浅く広がって、国全体の空を覆っていたんだ。たまに、一部が雨として降ることはあったけど。洪水のときは、その水が全部地に落ちたんだよ。それから、湧き水は湧かなくなって、泉は消えたんだ」
「どうして、急に落ちちゃったの?」
「分からないんだ。外因とか、精霊の国の霊力が弱ったからだとか、罰だとか、いろいろいわれているけど、はっきりした答えは出ていないよ。でも、泉が消えたあとで、国は動物たちを護る力を無くしたんだ」
「……だから、夏澄くんたちは泉を元にもどす方法を、ずっと探しているんだね」
「うん、もう千年は。長すぎて飽きれるだろ?」
夏澄は笑顔でいる。そんな笑顔は、風花をちくんと刺した。
そんなに長い間探し続けて、夏澄くんはどんな気持ちでいたんだろう。
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