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水の空の物語 第5章 第29話

「私たちはまず、しろつめ草に霊泉水を撒くことから始めました」

 ああ、と、夏澄は顔をあげる。
「あの辺りは、霊泉が豊富なんだよね」

 星水粒の光が、彼をうっすらと青く染めていた。

「一番近い霊泉は、二つ向こうの山にありました。そこから、霊泉水を運びました」

「すぐ効いた?」

「ええ。すると、葉はよく茂るようになり、匍匐茎も伸び、池くらいの大きさになりました」

 よかったよねと、夏澄は微笑む。

「その頃には、私たちが運ぶ水では足りなくなっていました。それで、私たちは南の湖に住む湖龍に、春ヶ原に霊泉を湧かせてほしいと、祈願に行きました」

「そういえば、蓮峯山の辺りには守護龍がいるのよね」

「守護龍……?」

 スーフィアの言葉を、飛雨が聞き返す。

「へえ、なんかかっこいいな」

「ありがとうございます。春ヶ原から南にある、明日野湖に住む龍です。明日野湖の湖龍の一族は、あの辺りを護ってくれているのです」

「すごいな。龍に護ってもらうなんて、オレたち人間の憧れだよな。例えるなら、一日パパだ。なあ、風花」

 いいながら飛雨は、風花をじっと見る。

「う、うん。そうだね」
 風花は目を瞬かせた。

「オレは冗談をいったんだぞ。わらってみろ、風花」

「意味が分からないよ?」

 渾身の冗談だったんだぞと、飛雨は眉を寄せた。



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