水の空の物語 第1章 第13話
目を閉じると、浮かぶのは青い光に包まれていた夏澄だった。
ダイヤモンドダストのような、ふしぎな水蒸気の中の彼はまぶしかった。
……忘れちゃうんだな。
奇跡みたいだったのに。
それとも、また逢えるかな。……そんなにうまく行くはずない。きっと二度と逢えない。
「あの、やっぱり待ってくれない?」
飛雨はぴたっと手を止めた。
「なんていった?」
「だから、記憶消すのやめたい。せめて明日まで待って」
「なんで明日なんだよ?」
「心の準備があるから。あと、日記とかに今日の想い出書きたいの」
「アホか。日記残されたら、記憶消す意味ないだろ」
「じゃあ、あと一時間。わたしも譲歩するから、飛雨くんも譲歩してくれないか……」
飛雨は顔を引きつらせた。湧き上がるような怒りが、彼の瞳に浮かぶ。
風花は足速に歩き出した。
そのまま駆け出し、十分距離が開いただろうところで振り返る。
じっと立っている飛雨が見えた。
五十メートルは離れている
逃げ切れた?
息をついたとき、飛雨が地面を蹴った。
刀のような風が風花を追い越す。飛雨は風花の前方に回り込んでいた。
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