水の空の物語 第5章 第36話
「楽しかったですよ。人の遊びは興味深いです」
「よかった。子供の遊びだから、心配だったんです。……あ、でも草花ちゃんなら喜びますよね。今度は草花ちゃんとも遊びましょう」
「ありがとうございます。草花、すごく喜びます」
優月は顔を上げ、空を見る。光に手をかざして、遠くにある山々を見つめた。
熱のこもった瞳で、ずっとそうしていた。あの山々は春ヶ原がある方向だ。
もしかして、春ヶ原にいる草花ちゃんを思い出しているのだろうか。優月さんは、やっぱり、草花ちゃんが好きなのかもしれない。
「春ヶ原を見ているんですか? 草花ちゃん、優月さんがいなくて淋しがっていますよね」
「まあ、でも立貴がいますから。草花と立貴は両想いなんですよ」
「え?!」
思わず、声をあげてしまった。
優月はそんな風花にただ微笑んでいる。
「今度は春ヶ原で遊びましょう。また来てください、風花さん」
「あ、あ、はい。……うれしいです。春ヶ原って、人の世界から見ると、夢みたいな場所なんですよ」
「そうですね。春ヶ原が始まったころは夢でいっぱいでした」
優月はやわらかくわらう。
風花はあれ、と思った。一瞬、優月の瞳に悲しみがよぎったからだ。
……。
同じ悲しみをどこかで、前にどこかで感じた気がした。
いつだっただろう。確か、近くに夏澄くんがいた気がする。彼に聞いてみようか。
「ねえ、夏澄くん。前にさ……」
「なあに? 風花」
いった夏澄は、ふいに立ちとまった。体をこわばらせて、周りに視線を走らせる。
訊こうと聞こうとしたとき、ふいに冷たい風が吹いた。
枯れ葉の混ざった冷たい風だ。前に浴びた記憶があるものだった。
「風花っ!」
夏澄が駆け寄り、風花を庇うように風上に立った。
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