水の空の物語 第3章 第26話
草花は怯えた顔で、動物たちを呼び寄せる。護るように、両手を広げてかばった。
透明な水晶玉のような物を、立貴は取り出した。
彼はそれを両手で包むようにし、胸の前に持ってくる。 瞳を閉じて、なにかを念じるようにした。
しばらくして、水晶玉が青く輝きはじめた。
太陽のように幾筋もの光を発し、野原を照らす。
しろつめ草のほうに向かい、霊力を放ちかけていた夏澄は、それで動きを止めた。
光はだんだん強くなり、ゆっくりと広がって、春ヶ原全体を満たした。
大気が青く霞んだ。しろつめ草も、木蓮や花海棠の花々も全てが青く染まる。
海の底に来たようだった。
青い光の向こうの桃色しろつめ草は、紫紅色に変わっている。目に沁みるくらいにきれいだった。
やがて、冷たかった風が止み、花の香りの暖かい大気がもどってきた。
優月が大きく息をつく。
青い大気は消え、元の世界の色に変わった。
立貴は、今度は水晶玉を空にかざした。
水晶玉から、一筋の光が空に伸びていく。すると、白い霧のようなものが春ヶ原の上空に集まりはじめた。集まった霧は泉へと変わっていく。
水晶玉から淡い光が放たれる。その光に照らされ、泉は清められたように透きとおっていく。
薄い青に変わった。
やがて、雨になって落ちはじめた。
雨を浴びたしろつめ草は、青々と蘇った。
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