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水の空の物語 第6章 第11話

 まぶたを閉じていた夏澄は、たまにその瞳を開ける。

 公園内に視線を巡らせる。

 だが、また瞳を閉じた。だんだんと表情に焦りの色が浮かんできた。

 また、弱い風が起こった。 吹いても葉をかすかに揺らす程度の風だ。

 それでも、風に当たれば植物は萎れる。

 スーフィアが風の後を追いながら、植物を癒していた。

 だんだんと、風は弱くなっていく。 

 植物も、萎れるのは葉先だけで済むようになった。
 優月の霊力は更に弱くなっている。

 夏澄は立つ位置を変えながら、優月の気配を追うようになっていた。

 夏澄の霊力でも、近づかなければ分からないほど、優月の気配は弱くなっているのだ。

 夏澄のとなりに立った飛雨が、夏澄の手首を握る。飛雨の手が透明に近い水色に光った。

 飛雨は夏澄に霊力を送ったのだ。

 それでも、さまよっている夏澄の視線が、どこかに定まることはなかった。

 ……もう。
 息がつまって、風花はむせた。 

 もう、だめ。

  止まってしまったかと思うような、きしんだ時間が過ぎていく。

 辺りはゆっくりと静まりかえっていった。 優月の風は吹かない。 足に力が入らなくなり、風花は地面にひざをついた。

  涙があふれてくる。

  風花は優月の風が、最後に吹いた草地を見つめた。 湧水で、湿地のようにぬかるんだ場所だ。 

 ぴちゃぴちゃと、かすかな水音が聞こえる。 

 夏澄も、その草地で視線を止めていた。



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