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水の空の物語 第2章 第22話

「ど、ど、ど、どうしようっ」

 風花は思わず、結界を出ようとした。背後から、夏澄に止められる。

 月夜は小川沿いの道を、あたりを見回しながら歩いてくる。霊泉の手前で立ち止まった。

「あの人、風花のお兄さんなの?」

 夏澄がささやく。

 夏澄の声はどこか虚ろだった。心がここにないような瞳をしている。さっきの名前の話が、途切れてしまったからだろうか。

 月夜には、結界の中にいる風花たちが、完全に見えていないようだ。

 視線が、風花たちで止まることはない。

 大体、なんで月お兄ちゃんがここに?!
 お兄ちゃん、水辺とか好きだっけ?

 しばらく霊泉の前にいた月夜は、ふいに向きを変えた。道をもどっていく。

 入口近くの駐輪場まで行くと、風花の自転車に、確認するように手を乗せる。ため息をつくと、駐輪場の鉄柱に寄りかかった。

 細い指で額を押さえて、目を閉じる。

「お兄さん、風花を捜しに来たんだね」
 風花は気まずくうなずいた。

 早く帰らないと……。

 じゃあ、どうしよう。ま、まず、見られないように結界から出て。

 それからー。

「風花、こっち」

 風花が考えを巡らせていると、ふいに夏澄が風花の手を引いた。結界を出、林のほうに歩く。

 え?! と思ったが、月夜が風花たちに気付く様子はなかった。

「だいじょうぶ、幻術だよ」

 夏澄は木々の間を、ゆっくり進む。一番太い木の裏側に回った。





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