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水の空の物語 第1章 第23話

 花であふれているなら、世界は花色に染まっている。澄んだ青い水と花色の国。

 夏澄くんのようにきれいだと、風花は思った。

 故郷を想う彼の瞳がきれいで、どきどきする。
 風花まで、水の精霊の国が愛おしく思えてきた。

「そこで、水の精霊も、動物も植物も、争わないで平和に暮らしていたんだ」

 いたんだと、夏澄は過去形を使う。それでも彼は、優しい表情でいた。

 風花の心に、針が刺さったような不安が浮かぶ。

「今は違うの?」

「だんだんと壊れていったんだ。まず、動物と植物が争うようになって、その後は動物同士。そのうち動物の寿命が短くなって、動物はほとんどがいなくなった」

「どうして……?」

「水の精霊の国が水の多くを失って、動物を護れなくなったからだっていわれている」

 風花は声を出せなかった。

「俺はね、故郷を元にもどす方法を見つけたいんだ。世界中まわって調べているんだけどね、答えは見つからない。……風花は洪水伝説って知ってる?」

 風花は首を横に振った。

「洪水で、人の世界の街や国と一緒に悪が滅んで、善人だけが生き残るって伝説。そんな洪水伝説は水の精霊の国にもあるんだ」

「その洪水で、水の精霊も滅んだの?」

「少し違うよ。水の精霊の国に洪水は来なかったんだ。でも、人の世界を襲った洪水の水は、水の精霊の国のもので、国が水を多く失った後から、動物たちを護れなくなったといわれているんだ」

 難しい話が続いて、うまく理解できない。風花は頭の中を整理した。

「人間の国を滅ぼす洪水があって、それは水の精霊の国の水で。夏澄くんの国の動物や植物が被害を受けたってこと?」

「そう。洪水伝説は世界中にあってね、俺たちはいろんな国を回りながら。水の精霊の国を元にもどす方法を探しているんだよ」

 ささやくようにそっと、でも意志の強い瞳をして夏澄は言葉を紡ぐ。

 飛雨とスーフィアは、どこか悲しげに夏澄を見ていた。



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