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水の空の物語 第2章 第28話


 スーフィアは風花を振り返った。そっと窺ってみる。

 やはり、風花はローフィとは印象が違う。大体、ローフィが持っていた強大な霊力を感じない。

「ねえ、飛雨……」
「なんだよ」

「なんであの娘は、七回も夏澄のところに来たのかな」

「知るかよ」
 飛雨は苛立ちを隠さない。

「飛雨はしっかり見張っていたんだでしょ」

「ああ、あの女……、じゃない、風花は、隙間から入り込むみたいにして、いつの間に網を抜けてるんだ」

 飛雨は苦々しくいう。

「昨日だって、オレがちょっとよそ見したときに、ぱあっと中洲に渡って、夏澄を見つけてさ」

「よく考えると、おかしいわよね」

 スーフィアは夜空を見上げ、瞳を閉じた。なんだか疲れてしまった。

 どこからか、風花の名を呼ぶ声が風に乗ってきた。風はスーフィアの金の髪を揺らす。

 風花の兄だという少年が、名を呼びながら駆け寄っていた。

「お前、いないと思ったら、林なんかに入り込んでたのか?」
 危ないだろと、彼は続ける。

 風花にはあまり似ていない。物腰柔らかな少年だ。

「つ、月お兄ちゃん?! なんでここに?」

 風花は、ハーフアップの髪とリボンを揺らして慌てる。ああいう可愛らしいところは、ローフィに似ている。

 そんな風花に、彼は忍びわらいを漏らした。妹がかわいくて仕方ないらしい。

「ひろあちゃんたちが教えてくれたんだよ。こんなところまで来たら、日が暮れて危ないって」

「だって、まだ七時前……」
「この場所がだめなんだよ」

 ごめんなさいと、風花はうなだれる。

「早く帰ろう」

 でも、と風花は霊泉に目を走らせる。

 兄は強く、風花の手を引く。風花はやがて、諦めたように帰っていった。




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