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水の空の物語 第5章 第32話

「立貴は頻繁に通ってくるようになり、やがて禁足地に住むようになりました」

 よかったと、風花が伏せ目がちに微笑んだ。

「山頂が気に入った立貴は、霊泉を湧かしてくれました。そして……、さらに自分が閉じ籠もれるように、結界を張りました。それが、春ヶ原の始まりです」

 立貴が自分のために張った結界でも、そのお陰で山頂は緑で溢れた土地になった。

 草花は夢を見るような瞳でいた。動物たちと、はしゃいでいた。

 立貴は皆のために、結界内の気候を春のものに変えてくれた。

 いつも無表情で、口もほとんどきかない立貴だったが、いつの間にか変わっていた。

 彼は優月に、頼るような、甘えてくれるような瞳を見せることがあった。
 弟ができたようで、うれしかった。

 あのころが一番幸せだったなと、優月は瞳を伏せた。

 ひとつずつ夢が叶っていって、每日が輝いていた。




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