水の空の物語 第6章 第13話
優月の木は泉のほとりにそびえている。目を凝らすと、木はかすかに霊力の光を放っていた。
生きてて、くれた……っ
駆け寄った風花は息を飲む。
優月の木から風が放たれたからだ。風は泉の向こうのしろつめ草を萎れさせた。
風花は恐る恐る春ヶ原を見回した。
優月さんは本体の木で生きていてくれた。でも……。
一面に広がっている桃色しろつめ草は、一部が萎れている。
前のような強い風ではないし、枯れてもいない。優月の霊力が弱くなっているのだろう。
野原を囲んでいる木々でも、数枚の葉が変色していた。
春ヶ原全体に立貴の雨が降り注いでいた。雨は植物をよみがえらせる。
だか、全体を癒やすには力が足りないんだろう。前見たときよりも、癒える速度が遅い。立貴も弱っているようだった。
夏澄が瞳に涙を浮かべる。
澄んだ水色の霊力を放ち、植物たちを癒やし始めた。
風花は辺りを見回す。春ヶ原の端のほうで視線を止めた。
背伸びして、目を凝らす。草に隠れてよく見えないが、誰かいるようだった。
春ヶ原はいろいろな木に囲まれている。その花海棠の根元に草花が横たわっていた。周りで小毬やビー玉たちが護るようにしている。
竹とんぼが不安げに草花にすり寄っていた。
横になっていた草花が身じろぎした。
すると、また風が起き、草花を撫でる。草花はまた動かなくなった。
風は小毬たちにも吹きつける。
すると、小毬たちは次々に倒れた。
まるで草花たちを狙ったようだった。
立貴が雨を止め、草花たちに駆け寄った。
なんで?
風花は立ち尽くす。
……きっと偶然だ。優月さんがこんなことをするはずがない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?