水の空の物語 第5章 第28話
「草花は桃葉を、うさぎママと呼んでいました。桃葉は二匹の仔うさぎを連れていて、草花の葉で育てていました。草花と本当の家族のようでした」
「種族を越える家族なんて、素敵ね」
頰杖をついているスーフィアが微笑む。
「でも、草花の葉はすぐ、なくなってしまいます。草花は精霊の力で葉を伸ばしますが、当然足りません」
「……仕方ないわよね」
「桃葉は、仔うさぎの丨子桃《こもも》と丨雛桃《ひなもも》をつれて、他の場所に葉を探しに行くようになりました」
優月は一度、言葉を止めた。
他所に行くようになってから、一週間くらいで、子桃の姿が消えた。イタチに襲われたということだった。
桃葉と草花は泣いてばかりいた。
その後も、草花はしばらく口をきかなかった。
……この部分を伝えるのは、やめようと思った。
隠すのは気が引けるが、もてなしてもらっている今、いわないでもいいだろう。
特に水の精霊は、深く傷つくはずだ。
「野生の世界ですから、他所には危険があります。草花は、そんな風に桃葉たちを危険に晒すのを厭いました。そして、よくいっていました」
……草花はもっと、大きなしろつめ草になりたい。
……もし、一年中、春の世界があれば、みんなもっと幸せになれるよ。
「その願いは、いつしか私の願いにもなっていました」
なつかしさがこみ上げる。
始まりのあの季節のことは、はっきり覚えている。
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