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水の空の物語 第5章 第37話

 風が夏澄に吹きつける。 夏澄は霊力で防御しているようだった。

 これ、春ヶ原を傷つけた風……?
 なんで、ここに?

 優月さんがいるから?
 やっぱり、狙われていたのは優月さん?

 風花を庇う、夏澄の衣が風を受けて揺れた。

 夏澄くん……っ。

 風花は足を踏み出した。夏澄を盾にしたくない。
 夏澄の前に出ようと、歩を進める。その風花を、夏澄が後ろ手で止めた。

「だめだよ、風花」
「でも……」

「俺はだいじょうぶだから」

 夏澄の手が水色に光り始める。
 光は縦に広がりはじめ、夏澄の前に壁のようなものを造った。

 霊力の壁にぶつかった風は、跳ね返るように曲がる。分散した。

 分散した風は、広場のほうに流れていく。

 飛雨やスーフィアのほうにも向かった。 飛雨は駆け出し、軽々と風を避ける。

 スーフィアは優月の腕を取って、一緒に跳躍する。彼女の桜色の衣が、流れるようになびいた。

 「平気か? 夏澄」
 飛雨も、添うように夏澄の隣で足を止める。
 身構えながら、左右に視線を走らせた。

「ありがとう。飛雨も気をつけて」

 夏澄は林の前にも霊力の壁を張る。風は壁で跳ね返る。 

 跳ね返った風の多くは、広場の中央に集まる。

 中央にあるのは乾いた砂だけだ。運良く、草は生えていない。

 風は砂埃を上げながら、吹き荒れていた。 風の中に混じっている枯れ葉が渦を巻く。

 風が唸る音、枯れ葉がすれる音。

 山頂の静かな広場に響いていた。 

「……!」

 風花は小さく悲鳴をあげた。

 風のひとつの流れが、スーフィアを掠めたからだ。 スーフィアはバランスを崩して、地面にひざをつく。

 優月がスーフィアを助け起こした。




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