水の空の物語 第3章 第22話
「でも、早く復活できたんだな。霊力でか?」
長い間、むっつりと黙り込んでいた飛雨が、やっと口を開いた。
「はい。幸いにも茎は無事でしたし」
「なんで、茎が無事なだけで回復するんだ?」
飛雨がふしぎそうにいう。夏澄たちも、首を傾げた。
「あ、あのね、夏澄くん。しろつめ草の茎って、地面を這ってるもののことなの。あの、根っこみたいなのが茎なんだよ。匍匐茎っていって、普通の茎じゃないの。匍匐茎が無事だと、葉はたくさん出てくるんだよ」
「詳しいんだね、風花」
「パパから聞いたの。パパは獣医だけど、植物にも詳しいんだ」
「そういえば、春ヶ原の植物は、桃色しろつめ草と木々だけなんですね。葉を食べられても枯れない植物を選んだんですか?」
「いえ……」
優月は首を振る。
「ここの木々は動物たちと同じように、草花が保護してきたんです」
優月は、なつかしそうにわらう。
「木々は皆、精霊ではありませんし、意志も確かめないで、動物たちを養ってもらうわけにはいきません。草食の仔は草花、雑食の仔は私が養うと決めてあります」
「蜜柑で雑食の仔を、ですか?」
「そういうこともあるんだよ。夏澄くん。ルーメン微生物が活動したときとか」
「なんだよ、それ」
風花の言葉に応えたのは、夏澄でなく飛雨だった。
話の意味が分からないといい、身構える。
「牛なんかの動物の中に住んでいるものだよ。これもパパから聞いたの。ルーメン微生物は栄養を完璧に吸収させてくれて、自分はアミノ酸に……」
「なにいってるか、全然分からねーぞ」
頬を引きつらせ、飛雨は風花を睨む。
「……ルーメン微生物がいれば、植物が完全栄養食になって、雑食動物を養えるの」
「やっぱり分からん。頭脳自慢か? 現代人は、ガッコで難しいこと勉強するね。いい御身分だね」
「……ルーメンとは、魔法のような言葉ですね」
優月は微笑んだ。
「美しい言葉です。人の世界の話はふしぎですね。いい話をありがとうございます」
「精霊の世界のほうがきれいです」
「私の実が特別なのは、湖龍の一族と契約したからです。龍の力で、全ての生き物を養える力を実に宿してもらいました。対価を得る代わりに、実をいつでも湖龍に差し出すと誓いました」
優月の言葉に、風花は黙り込んだ。
「優月さんは強いんですね」
少しして、スーフィアが小さくつぶやいた。
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