水の空の物語 第2章 第10話
「ごめーん。でも、すごくきれい」
波紋はそっと押してだけでも、広がっていく。ゆらゆらと虹色になっていく。
「夏澄くんたちって、本当にすごいよねー」
「だろー」
飛雨が自慢げに、風花の隣に立つ。
「すごいだろ、完璧な結界なんだぜ。霊泉が夏澄に力を貸してくれたんだ。夏澄がいるから、協力してくれるんだぜ」
「さすが、夏澄くんだね」
「ああ、さすが夏澄だよ。……こっち来いよ、風花」
泉のほとりに、霧にけぶっている場所があった。飛雨はその方向に歩き出し、霧の中にすわる。
夏澄とスーフィアも同じようにすわっていた。
「おいでよ、風花」
夏澄が微笑む。
霧は、泉の下のほうにある小川から流れてきていた。
泉からあふれた水が、集まって下っている小川があるのだ。小川はすぐ段差に流れこみ、そこが小さな滝になっている。
その滝の水しぶきが、霧に変わっていた。
霧は小川を遡って、泉のほとりに集まっていた。
「癒しの霧のなのよ」
スーフィアが霧を見つめ、触れる。
「私たちの疲れを癒やしたり、もたれさせてくれたりするの。私たちは夜、ここで休むのよ」
風花はゆっくり、霧の中に入った。
「そっと、もたれるようにすわるんだよ。分かる?」
「ううん……」
夏澄が立ち上がった。風花の肩に手を添え、腰を落とすように促す。
すわる風花の背中を、ずっと支えた。
「そう。ゆっくりね。体の力を抜いて、霧が支えてくれるのを待つんだよ」
すこしすると、体が浮きあがるような感覚がした。夏澄が手を離す。ふわふわとした霧に、寄りかかることができた。
体の疲れが抜けていくのが分かった。本当に、癒してくれるのだ。
どこか、夏澄を想わせる霧だった。
風花は目を閉じて、深くもたれた。
「それでさ、風花……」
やがて、夏澄が口を開いた。
「昨日の話の続き、いい? 本当に俺たちを手伝ってくれるの?」
少し緊張しているような声だった。
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