水の空の物語 第4章 第28話
家に電話をし、風花はすぐに帰ると告げる。
自転車のハンドルに手をかけた。
『じゃあ、行こう、風花』
『見えなくても、近くにいるから、安心していいわよ』
夏澄とスーフィアの声が頭の中に響く。
姿が見えなくて実感がないのに、なぜかうれしくなってきた。
初めての体験だからだろうか。わくわくする。
「疲れているのにありがとう。夏澄くん、スーフィアさん」
夏澄たちは姿を消しているが、風花はつい彼らを探してしまう。
そうしているうちに、ふしぎな気持ちになっていた。
どこかでふわふわ浮いているはずの夏澄たちが、なぜだかひどくうらやましい。
うらやましくて、自分もつま先立ちになって、体を浮かせる真似をする。
すると、本当に体が宙に浮くような、ふしぎな気持ちになってくるのだ。
瞼を閉じると、体が精霊のように、透明になっている気さえしてくる。
目を開けると勘違いだと分かるが、心がわくわくと浮き立ち、やはり空を舞えそうな気分になる。
遠くまで長く伸びる道を、蒼く霞ませる夜闇。通りすぎる温白色の街灯。
風花は自転車で風を切って行く。
そうすると、ますます空を舞っているような、おかしな錯覚に陥る。
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