見出し画像

水の空の物語 第5章 第35話

 風花は広場の端にある、杉の大木に駆け寄った。
 勢いのままにすわり込み、空を見上げる。

「疲れたーっ」
 大木にはスーフィアが先に寄りかかっていた。

「楽しかったねっ、スーフィアさん」

 いうと、スーフィアは優美にわらう。彼女は、目隠し鬼の遊びで使っていた風花のリボンを、きれいに伸ばしてくれていた。

「本当、つい夢中になっちゃうわよね。時間が経つのは早いわね」

「あ、太陽が低い……」
 風花は声を漏らす。

 周りの杉の木の影が、長くなっていた。

 影は杉林の中の、風花たちがいる広場に、くっきり映っている。

 広場の奥にある櫓の影も伸びていた。

 櫓は、この山で行われる春祭りで使われる、太鼓櫓だ。祭り終わった今は、どこか寂しげにしている。

 ここは、春祭りの時期以外は、誰も来ない場所だ。

「でも、よかったのか? 風花」

 広場の真ん中で、腕立て伏せを初めていた飛雨が声を飛ばす。あれだけ動いたあとなのに、彼は訓練を始めていた。

 身体能力を保ちたいからだそうだ。

「なにが?」

「だって、全敗じゃないか。ハンディもらえばよかったんだよ」
「ありがと。でも、だいじょうぶだよ」

 飛雨のいう通り、風花は一度も勝てなかった。気配を読める精霊たちに、目隠しはあまり意味がないからだ。

 目隠し鬼はまだよかった。

 初めにしたかくれんぼでは、いくらうまく隠れても、気配を読まれて見つかってしまった。

「優月さん、どうでしたか?」 

 夏澄と優月が、風花たちのほうに歩いてきた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?