水の空の物語 第3章 第12話
ふしぎそうに見つめる風花たちに、彼女は黙って微笑む。
……この仔は親からはぐれた仔ですと、小さな、声になっていないような声で告げた。
「彼女、まだうまく話す霊力はないのね」
話せないなら、霊力で心の声を聞くわねと、スーフィアは微笑む。
雪割草の精霊はうなずいた。
スーフィアは瞳を閉じた。スーフィアの海色の霊力が、雪割草の精霊を包んだ。
「この仔は、春ヶ原の精霊に頼まれて、世話しているそうよ」
しばらく黙っていたスーフィアは、まぶたを開く。
「春ヶ原?」
「東の山の頂上にある、春の気候が一年中続く野原ですって。そこで生まれた精霊たちが、たくさんの動物を護っているそうよ」
夏澄は瞳をみはって、雪割草の精霊に歩みよる。
彼女になにか問うように、かがみ込んだ。
その夏澄が、急に、驚いたように後ろを振り返ったゆっくりと後ろを振りかえった。木の枝を持ち上げ、森の奥を覗き込む。
夏澄は一点を見つめていた。
やがて、木々の間から、少女が姿を現した。
怯えたような瞳の少女の前に、夏澄はそっと舞い降りる。なにかを話しかけ、優しく頭を撫でた。
風花は驚いたが、飛雨たちは静観していた。夏澄が関わっていいのなら、少女は人ではないのだろう。
さっき風花が見た、白いワンピースの少女だった。
うさぎを抱き、泣きべそをかいていた。
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